この記事では『ウィリアム・テル』序曲で知られるロッシーニの代表曲を紹介します。
オペラで一大ムーブメントを巻き起こし、時代の寵児となったロッシーニ。
彼が残した作品のいくつかは現代にも受け継がれ、
多くのクラシック音楽ファンに愛されています。
そこで本記事では、ロッシーニのオペラ作品を中心に7作を解説します。
どの作品も個性的なものばかりですので、
ぜひ最後までご一読いただければ幸いです。
なお、この記事は前回までの2記事とリンクしています。
そちらも併せてお読みいただくと、ちょっとだけ教養が増えますよ!
前回の記事はこちら
ロッシーニの代表曲7選
聴衆から絶大な人気を獲得したロッシーニ。
そんな彼は、同時代の作曲家たちの憧れの的でもありました。
今回はオペラ曲から7曲と室内楽を1曲紹介します。
全部聴くのは難しいかもしれませんが、
「こんな曲もあるのか」程度でも、知っていただければ幸いです。
ロッシーニの代表曲その1:オペラ・セリアの新時代を開いた『タンクレーディ』
『タンクレーディ』は、ロッシーニが21歳で作曲した初の本格的なオペラ・セリア。
1813年2月6日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されたこの作品は、オペラ界に新風を吹き込みました。
『タンクレーディ』の最大の特徴は、
主役のタンクレーディを女性歌手(コントラルト)が演じる「ズボン役」を採用したことです。
これによりロッシーニは、新しい声楽スタイルを確立しています。
コントラルトとソプラノの重唱による斬新な音響効果は聴衆を魅了。
ロッシーニの名をイタリア中に轟かせることとなりました。
興味深いことに、原作(ヴォルテールの悲劇)と異なり、
初演ではハッピーエンドで終わりましたが、
後にフェラーラでの上演で悲劇版も発表されました。
現代では、両方のエンディングを組み合わせた演出もあり、
作品の解釈の幅広さを示しています。
ロッシーニの代表曲その2:喜劇オペラの傑作『アルジェのイタリア女』
『アルジェのイタリア女』は、ロッシーニが驚異的なスピードで作曲したオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)です。
1813年5月22日、ヴェネツィアのサン・ベネデット劇場で初演されたこの作品は、
わずか27日間で完成させられたことでも知られています。
軽快で魅力的な音楽と、コミカルな筋書きが見事に融合したこの作品は、
瞬く間に人気を博しました。
特に有名な序曲は、単独でも頻繁に演奏される人気曲となっています。
『アルジェのイタリア女』は、ロッシーニ作品として初めてドイツとフランスで上演され、
彼の国際的な名声を確立するきっかけとなりました。
ロッシーニの代表曲その3:オペラ・セミセリアの代表作『泥棒かささぎ』
1817年5月31日、ミラノのスカラ座で初演された『泥棒かささぎ』。
本作は、喜劇と悲劇の要素を巧みに組み合わせたオペラ・セミセリアです。
ロッシーニはこの作品のために、
スカラ座向けに3ヶ月という異例の長い期間をかけて作曲しました。
『泥棒かささぎ』は、フランスで流行していた「救出オペラ」の影響を受けており、
劇的な展開と喜劇的な要素のバランスが絶妙です。
複雑な合唱や重唱を効果的に使用し、約3時間半に及ぶ大作となっています。
日本でも2008年3月7日に東京文化会館で藤原歌劇団により初演され、
その魅力が広く認識されています。
ロッシーニの代表曲その4:壮大なファンタジーオペラ『アルミーダ』
本作は、トルクヮート・タッソーの叙事詩『解放されたエルサレム』を原作とする3幕のオペラ・セリアです。
1817年11月11日にナポリのサン・カルロ劇場で初演されました。
主役アルミーダには最高難度の歌唱技巧を要求し、
テノール歌手のみによる珍しい三重唱を含むなど、
音楽的に非常に挑戦的な作品となっています。
長らく上演が途絶えていた『アルミーダ』は、
1952年にマリア・カラスの主演で復活を果たしました。
現代では、ルネ・フレミングやグレゴリー・クンデなどの一流歌手により上演され、
その音楽的価値が再評価されています。
ロッシーニの代表曲その5:祝祭のための特別な作品『ランスへの旅』
1825年6月19日、パリのイタリア劇場で初演された『ランスへの旅』は、フランス国王シャルル10世の戴冠式を祝うために作曲された1幕のオペラです。
本作は、戴冠式という特別な機会のために作曲された期間限定の作品であり、
ヨーロッパ各国からの来訪者をコミカルに描いています。
当時の最高のベルカント歌手たちが出演した本作は、
作家スタンダールに「ロッシーニの最も優れた音楽」と評されました。
しかし、長らく忘れられていた『ランスへの旅』は、
1984年に指揮者クラウディオ・アバドにより約150年ぶりに復活し、
現代では世界的な注目を集めています。
ロッシーニの代表曲その6:不朽の名作『セビリアの理髪師』
ロッシーニの代表作『セビリアの理髪師』は、1816年2月20日にローマのテアトロ・アルジェンティーナで初演されました。
驚くべきことに、この傑作はわずか2週間で完成させられたと言われています。
軽快で聴きやすいメロディと、コミカルな筋書きが見事に調和したこの作品は、
初演時こそ失敗に終わったものの、すぐに人気を博しました。
現在でもロッシーニ作品の中で最も頻繁に上演され、
オペラ・ブッファの代表作として不動の地位を築いています。
序曲だけでも演奏されることの多い作品です。
ロッシーニの代表曲その7:『チェロとコントラバスのための二重奏曲』
最後は室内楽を紹介。
1824年に作曲された「チェロとコントラバスのための二重奏曲」は、
ロッシーニの数少ない器楽作品の一つとして知られています。
当時のロッシーニは、財界の有力者たちと親交を深めており、
この二重奏曲もその縁から生まれた作品です。
そのため、本作はロンドンの著名な銀行家デイヴィッド・サロモンズの縁者であるフィリップ・ジョセフに献呈されました。
初演後、長きにわたり忘れ去られていた作品でしたが、
初演から約140年後の1968年に、サロモンズの遺品の中から奇跡的に楽譜が発見され、
競売にかけられた後、翌1969年に初めて出版されました。
ということで、ある意味でロッシーニの「新作」かもしれませんね。
宗教音楽作曲としてのロッシーニ「スターバト・マーテル」
実はロッシーニは数こそ多くないものの、優れた宗教音楽も残しています。
本作『スターバト・マーテル』はそんな宗教音楽家ロッシーニを代表する作品です。
1841年に作品が完成し、翌年1842年のパリでの初演は大成功を収めています。
軽快な作品の多いロッシーニですが、本作では「荘厳さ」が十分に発揮されています。
本作は、オペラ「ウィリアム・テル」以降に作曲された数少ない作品でもあります。
ロッシーニの作品の特徴や魅力について
ロッシーニの作品の特徴や魅力を簡単に紹介します。
大人気作曲家であったロッシーニ。
しかし、その人気は彼の死とともに次第に忘れ去られてしまうことに・・・。
彼が再評価されたのは、意外にも20世紀に入ってからのことでした。
ロッシーニの作品の特徴や魅力その1:革新的な宗教音楽の普及者
ロッシーニは、従来教会の儀式でしか聴けなかった宗教音楽を一般のコンサートで演奏する先駆者となりました。
上述の代表作『スターバト・マーテル』は、まさにこの目的で作曲された作品です。
そのため、ロッシーニがいなければ、
宗教音楽が広く一般に親しまれるようになるには、もう少し時間がかかったかもしれませんね。
特徴や魅力その2:旋律の魔術師:自作自演の達人
「音楽のカメレオン」とも呼ばれるロッシーニ。
そんな彼は、同じ旋律を巧みに使い回す才能の持ち主でした。
例えば、1816年の名作『セビリアの理髪師』の序曲は、
過去の2作品の序曲を再利用したものです。
具体的には▶︎「バルミーラのアウレリアーノ」
▶️「イングランドの女王エリザベッタ」
▶︎「セビリアの理髪師」と言う流れです。
さらに、1825年の『ランスへの旅』を1828年の『オリー伯爵』に作り変えるなど、
自身の作品を柔軟に再構築する能力も持ち合わせていました。
この時には、なんとベートーヴェンの『交響曲第8番』の主題を転用しています。
なお、余談ですが・・・。
ヴィヴァルディも転用の天才だったことで有名ですね。
特徴や魅力その3:ロッシーニ・ルネッサンス
1970年代後半から始まった「ロッシーニ・ルネッサンス」により、
彼の作品は新たな輝きを放っています。
クラウディオ・アバドによる『ランスへの旅』の150年ぶりの再演を皮切りに、
ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルでの再演。
そして、指揮者アルベルト・ゼッダの貢献により、『タンクレーディ』や『湖上の美人』など、
忘れられていた作品が次々と復活しています。
なので、これからももしかしたら再演の機会に恵まれる作品が登場するかもしれません。
ロッシーニの代表曲まとめ
ということで、今回はロッシーニの代表曲7選と、作品の特徴や魅力を紹介しました。
いつもながらのざっくり解説ですが、少しでも興味を持っていただければ幸いです。
また、他のイタリアの作曲家についても、別記事で掲載していますので、
そちらも参考にしてみてください!
スターバト・マーテルとは、13世紀にキリスト教のフランシスコ会で誕生した「聖歌」の1つです。日本語では「悲しみの聖母」と訳されています。
イエス・キリストが磔の刑に処せられた際、そばにいた母マリアの悲しみを思う内容となっています。音楽だけでなく、絵画のモチーフとしても大変重要なテーマです。