「メンデルスゾーンの「厳格なる変奏曲」って、どんな曲なんだろう?」
「難しそうだけど、弾いてみたい…!」
どんどん上達すると、この曲に憧れが出てきますよね(筆者もそうでした)。
本作「厳格なる変奏曲」は、メンデルスゾーン晩年に書いたピアノ独奏曲。
深い精神性と構成美を持ち、ピアノ学習者からも高く評価されています。
でも、いざ楽譜を開くと「17の変奏って多くない…?」「すごく厳しそう…」と尻込みしてしまう方も多いはず。
この記事では、《厳格なる変奏曲》の特徴や難易度、学習者向けのポイントをわかりやすく解説します。記事の後半では、無料楽譜の情報もあわせてご紹介するので、演奏にチャレンジしてみたい方はぜひ参考にしてみてください!
筆者は3歳からピアノを開始。紆余曲折を経て、かれこれ30年以上ピアノに触れています。音大には行っておらず、なぜか哲学で修士号という謎の人生です。
メンデルスゾーン「厳格なる変奏曲」とは?まずは曲の概要から
出典:YouTube:野上真梨子様より
「厳格なる変奏曲」ってどんな曲?
メンデルスゾーンのピアノ曲といえば、「春の歌」や「無言歌集」など、親しみやすくメロディが美しい作品を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、今回取り上げる「厳格なる変奏曲(Variations sérieuses)Op.54》」は、そうした作品とはちょっと違った作品。どちらかというと、内省的で重厚な雰囲気を持つ変奏曲です。
この作品は、ニ短調の主題と17の変奏、および終結部(コーダ)から成り、全体の演奏時間は約10〜12分。変奏曲といっても、明るくユーモラスなスタイルではなく、「sérieuses(シリアス=真面目な、厳格な)」というタイトル通りの深みと緊張感を持つ作品です。
楽譜には具体的なタイトルはなく、1つ1つの変奏が途切れなく続いていきます。
技術的にも非常に高い完成度を誇り、単なる技巧誇示ではなく、ベートーヴェン的な構成力と内面的な表現を融合させた傑作として高く評価されています。
メンデルスゾーンってどんな作曲家?
難易度解説の前に、ちょっとだけ寄り道を。メンデルスゾーンについてざっくり解説しますね。
メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn, 1809–1847)は、ドイツ・ロマン派を代表する作曲家の一人であり、指揮者・ピアニストとしても活躍しました。
バッハの「マタイ受難曲」を復活上演するなど、音楽史上でも重要な存在で、古典派の形式美とロマン派の抒情性を両立した作風が特徴です。
代表作には、
などがあり、ピアノ曲でも高い人気を誇ります。
《厳格なる変奏曲》は彼の晩年にあたる1841年の作品で、より内省的・構築的な方向へ進んだ時期の代表的な1曲です。
メンデルスゾーンについての詳しい解説はコチラに書いています。
作曲の背景:ベートーヴェン記念プロジェクトの一環として
この作品が生まれた背景には、当時のヨーロッパ音楽界で行われていた「ベートーヴェン記念碑建立」のための募金運動があります。
1840年代初頭、ドイツ・ボンにベートーヴェンの銅像を建てるための企画が立ち上がり、多くの作曲家たちがその趣旨に賛同して記念アルバムへの作品提供を行いました。
そこには、シューマンやリスト、ショパンなどの錚々たる名前が並びましたが、メンデルスゾーンもこの中に名を連ねたのです。
メンデルスゾーンは、ベートーヴェンを心から尊敬しており、彼の音楽に対する深い理解とリスペクトがこの作品にもにじみ出ています。
形式的にも内容的にも、ベートーヴェンの晩年のピアノソナタや変奏曲を意識したような構造になっており、「変奏」という枠組みの中で、彼独自の精神性とロマン派的感情が見事に融合されています。
「厳格なる変奏曲」の構成と音楽的特徴を解説
出典:YouTube
主題と17の変奏:構造の美しさが際立つ
「厳格なる変奏曲」は、1つのシンプルな主題と17の変奏、そして力強いコーダから構成されます。
冒頭の主題はニ短調で、穏やかな中にも陰りのある、まさに「シリアス」な雰囲気。
この主題のメロディは対称的なフレーズ構造を持ち、リズムも安定しているため、変奏の展開に多彩な方向性を持たせやすい設計になっています。
変奏の構成は明確で、バロック的な様式(対位法や模倣)とロマン派的な感情表現の両方が交互に現れます。テンポや拍子、リズム、調性が少しずつ変化することで、一貫性を保ちながらも飽きさせない構成が魅力です。
どことなく、バッハ的な趣きが感じられる作品でもあります。
技巧と表現の両立が求められる変奏たち
全体の中には、リズムを崩した自由な変奏、オクターブを多用した豪快な変奏、和声が複雑で内向的な変奏などが次々と現れ、高度な技術と感性の両方が求められます。
正直、聴いてるだけでも激ムズ感が伝わってきます・・・。
たとえば、第6変奏を見てみましょう。

短い変奏ですが、跳躍と和音の鬼連続です。これくらいの難易度が全体に及びます。
しかも、単に速く正確に弾けるだけでは不十分で、変奏ごとのキャラクターを明確に描き分ける音楽的センスも非常に大切。
最後のコーダでは、急速なテンポで劇的に盛り上がり、まるでソナタの終結部のような堂々たる締めくくりが用意されています。
ここまでたどり着くだけでも、かなりの体力が必要です。
参考|ピティナ・ピアノ曲事典|メンデルスゾーン :厳格な変奏曲 Op.54 U 156
「厳格なる変奏曲」の難易度はどのくらい?【ピアノ学習者向け】
出典:YouTube
ということで、難易度解説へ行きましょう。基本的に、初心者の方は演奏不可です。
技術的な難易度:中上級〜上級者向けの理由
結論から言うと、本作「厳格なる変奏曲」は中上級〜上級レベルのピアノ学習者向けの楽曲です。全体の音楽的・構成的完成度が非常に高い一方で、それを支えるだけのテクニックも要求されるため、ある程度の演奏経験と実力が必要になります。
教則本としては、チェルニー40番、50番をしっかり弾けるレベルかなと。
具体的な技術的難所としては、以下のような要素が挙げられます。
楽譜のリンクは記事下にあります。
・素早いパッセージの処理(変奏8、13など)
→ 細かい音符を滑らかに弾くコントロール力が必要。
・オクターブ連打や跳躍(変奏14以降)
→ 手の大きさや筋力、安定したタッチが求められる。
・対位法的な構造(変奏5、9など)
→ 両手の独立性を活かしながら、複数の声部を弾き分ける技術。
テンポの変化や拍の揺れに柔軟に対応する力
→ テクニックと音楽性のバランス感覚が問われる。
「ただ音を追っているだけ」では不完全に聴こえてしまうため、音の質感・粒立ち・間の取り方まで含めて細かく作り込む必要があります。
全音ピアノピースでは難易度F(上級上)です。
>>アマゾン:厳粛なる変奏曲/メンデルスゾーン(タイトルちょっと違いますが同じ作品です)
表現力・集中力も求められる曲
「厳格なる変奏曲」の本当の難しさはここから。
前述したように、この曲は単に技術的な面だけではないです。
変奏という形式の中で全体を一つの作品としてまとめ上げる構成力と、変奏ごとの表情を描き分ける表現力。
ここがポイントかなと。
特に重要なのが、
緊張感の維持:
→ 静かな変奏が続く中でも集中力を切らさず、張り詰めた空気感を保つ必要がある。
音色とタッチの変化:
→ 柔らかく歌わせる変奏から、鋭く打鍵する変奏まで、音の幅を広く使いこなす必要がある。
一貫性のある解釈:
→ 各変奏を「バラバラな曲」として弾くのではなく、一つのストーリーとして流れを作る演奏が理想。
なので、「厳格なる変奏曲」は演奏者の成熟度が反映されやすい作品かなと思います。
上級者でも弾きごたえがあり、音楽的にも深く掘り下げる価値のある一曲です。
「厳格なる変奏曲」はこんな人におすすめ!
出典:YouTube
ベートーヴェン〜ショパン〜ブラームス好きに刺さる曲
メンデルスゾーンの「厳格なる変奏曲」は、ロマン派ピアノ音楽の中でも特に精神性が高く、構成的な魅力にあふれた作品です。そのため、以下のようなタイプの人に特におすすめです。
ベートーヴェンの後期ソナタに惹かれる人
→ 対位法や変奏形式の構築美を楽しめる人にぴったり。
ショパンの幻想曲やバラードなど、構成力のある作品が好きな人
→ 感情と論理のバランスを好む人に合う。
ブラームスの厳格な変奏曲や晩年作品に興味がある人
→ 渋いけれど深い味わいの音楽を好む層にフィット。
また、ハノンやツェルニーの技術練習を終えた人が、「次に何を弾くか?」を考えるときのステップアップ曲としても最適です。技巧と表現、両方の課題を一曲で扱えるため、実力確認にもぴったりです。
まぁ、ハノンは一生物ではありますが・・・。筆者はツェルニー大の苦手でした。
コンクール・演奏会レパートリーとしても優秀
それはさておき。
この曲は、「弾けると一目置かれる曲」として、演奏会やコンクールのプログラムにも適しています。ピティナなどでもよく登場しますね。
- 表現力と構成力の両方が試されるため、審査員や聴衆に「音楽の深さ」を印象づけやすい
- 単独曲としても、複数曲の中に組み込むプログラムの中でも扱いやすい(10〜12分程度)
- 技巧的に華やかな変奏もあり、聴かせどころも明確
演奏者の解釈や音色の作り込みが結果を左右するため、「技術だけでなく音楽的に成熟した人」として見てもらえる可能性が高い作品です。
「厳格なる変奏曲」の無料楽譜を入手するには?【IMSLPの紹介】
出典:YouTube
最後は楽譜紹介で締めくくりたいと思います。
チャレンジしたい!という方は、ぜひ参考にしてくださいね!
IMSLPで楽譜を無料ダウンロード
メンデルスゾーンの「厳格なる変奏曲」は、著作権が切れているため、無料で楽譜を手に入れることができます。入手する際には、国際楽譜ライブラリープロジェクト「IMSLP」が便利です。
IMSLPからのダウンロードはコチラから!
IMSLPでは、さまざまな校訂者による版を比較・ダウンロードできます。中には自筆譜に近い形のものもあり、「どのように演奏するか」を考える上でも非常に参考になります。
その他の楽譜入手方法(国内出版社や校訂版)
もし演奏用としてしっかり使いたい場合は、以下のような出版社の校訂版を購入するのもおすすめです。
ヘンレ版(Urtext)
→ 原典に忠実で、フィンガリングやペダリングの記載が最小限。研究派におすすめ。
>>アマゾン:メンデルスゾーン: 厳格なる変奏曲 Op.54/ヘンレ社/原典版
音楽之友社(全音)など国内出版社の版
→ 解説や指使いのヒントが丁寧で、独学でも取り組みやすい。
>>アマゾン:標準版ピアノ楽譜 メンデルスゾーン 無言歌集 解説付 New Edition
必要に応じて、IMSLPの無料版と出版社版を使い分けるのが、効率よく練習を進めるコツです。
✅ まとめ:メンデルスゾーン「厳格なる変奏曲」は技術と精神性を磨ける名曲!
《厳格なる変奏曲》は、メンデルスゾーンがベートーヴェンへの敬意を込めて書き上げた、構成的にも音楽的にも非常に優れた変奏曲です。
難易度は高めですが、それだけに得られるものも大きく、ピアノ学習者・演奏家にとって一生付き合えるような深い魅力を持った作品と言えるでしょう。
最後に、この記事で紹介した内容を簡単に振り返りますね。
本記事のポイントまとめ
- 《厳格なる変奏曲》は、ニ短調の主題と17の変奏からなる構成重視の作品
- 「sérieuses=真面目な・厳格な」雰囲気が全体を貫いている
- ベートーヴェン記念事業への参加作品として、精神性の高い音楽性を持つ
- テクニックだけでなく、音楽的解釈力と集中力が求められる
- 変奏ごとの表情を的確に描き分けることで、演奏の完成度が上がる
- ベートーヴェンやブラームス好きにおすすめ!構成美を味わえる
- コンクール・演奏会用レパートリーとしても非常に優秀
- IMSLPなどで楽譜を無料入手可能。出版社版との併用も効果的