クープランとはどんな人物?生涯やエピソード、代表曲を解説!

    この記事では、フランス・バロックの巨匠フランソワ・クープランについて解説します!

    太陽王ルイ14世が君臨し、ヴェルサイユ宮殿が最も華やかだった時代、その絢爛豪華なサロンを優雅で繊細な響きで満たした音楽がありました。その人物こそ、フランス・バロック音楽を代表する作曲家、フランソワ・クープランです。プーランクじゃないですよ!

    「大クープラン」とも呼ばれる彼は、繊細で詩的なクラヴサン(チェンバロ)曲を数多く残し、その芸術性の高さは、J.S.バッハにも大きな影響を与えました。

    この記事では、フランスのロココ文化を象徴する偉大な芸術家、クープランの生涯、その音楽の秘密、そして雅で謎めいた魅力に満ちた代表曲を分かりやすく紹介します。

    筆者は3歳からピアノを開始。紆余曲折を経て、かれこれ30年以上ピアノに触れています。音大には行っておらず、なぜか哲学で修士号というナゾの人生です。

    フランソワ・クープランとは?ヴェルサイユ宮殿の音楽家

    まずは、クープランがどのような人物だったのか、いつものように簡単なプロフィールから見ていきましょう。

    項目内容
    フルネームフランソワ・クープラン
    生没年1668年 – 1733年
    出身フランス・パリ
    称号「大クープラン(Couperin le Grand)」
    功績フランス・クラヴサン音楽の完成、教則本『クラヴサン奏法』の出版
    代表作クラヴサン曲『謎めいたバリケード』、『恋のうぐいす』

    『クラヴサン奏法』の重要性

    クープランの功績を語る上で欠かせないのが、1716年に出版された鍵盤楽器の教則本『クラヴサン奏法』です。

    この本の中で彼は、正しい指のポジションや繊細なタッチ、そしてフランス音楽に不可欠な多種多様な装飾音符の具体的な奏法を、体系的に記しました。

    出版するや、ヨーロッパ中で高く評価され、バッハも熱心に研究し、自らの息子の教育にも用いたそうです。後世の鍵盤音楽の発展に、計り知れない影響を与えた一冊です。

    ちなみに、ラヴェル作曲「クープランの墓」は、クープランの時代の作曲技法を手本として作曲されました。

    クラヴサン(フランス語)とは、いわるゆチェンバロ(ドイツ語)のことです。ほかにハープシコード(英語)と呼ばれることもあります。

    クラヴサン(チェンバロ・ハープシコード):出典:Wikipedia

    フランソワ・クープランの生涯:フランス宮廷と鍵盤音楽の詩人

    ここでは、もう少しクープランの生涯について深ぼって解説します。
    同時代の作曲家の関連記事もお読みいただくと、時代背景が掴みやすいですよ!

    参考|ピティナ・ピアノ曲事典|クープラン

    パリ音楽一家に生まれる(1668年〜)

    フランソワ・クープラン(François Couperin)は、1668年11月10日、フランス・パリに生まれました。クープラン家は代々音楽家の家系で、父シャルルも聖ジェルヴェ教会のオルガニストを務めていました。

    早くに父を亡くしたものの、叔父ルイ・クープランなど周囲の音楽家たちの支援を受け、少年時代から音楽の才能を伸ばしていきます。

    若くして宮廷音楽家に(1680年代)

    1685年、わずか17歳で父の後を継ぎ、聖ジェルヴェ教会のオルガニストに就任

    その演奏技術と作曲の才能は高く評価され、1693年にはルイ14世により「王室オルガニスト」に任命されます。

    以後、彼はヴェルサイユ宮廷で演奏や作曲の任務を担い、フランス宮廷音楽の中核を担う存在となっていきました。

    宮廷に咲いた優美な鍵盤音楽(1700年代)

    1700年以降、クープランは自身のクラヴサン作品を体系的に出版し始めます。

    とくに有名なのが、1713年から刊行された『クラヴサン曲集(Pièces de clavecin)』全4巻。
    その中には「神秘的なバリケード」「ティク・トク・ショク」など、詩的なタイトルと繊細な情感をたたえた作品が数多く含まれています。

    また、1716年には音楽理論書『クラヴサン奏法の技法(L’Art de toucher le clavecin)』**も発表し、装飾音や演奏スタイルの解説を通して、フランス式鍵盤音楽の演奏法を後世に伝える指針を示しました。

    イタリア音楽との融合と晩年の活動

    クープランはフランスの伝統様式を守りつつ、イタリアの音楽(特にコレッリヴィヴァルディ)にも深い関心を寄せていたことで知られています。
    この融合を象徴するのが、1722年に出版された**『諸国の趣味(Les Goûts réunis)』**。
    これは、フランスとイタリア両様式を調和させようという試みで、「国際的なバロック音楽」の先駆けとも言える作品群です。

    また、ルイ14世に続いてルイ15世の時代にも宮廷音楽家として活動し、フランス宮廷の音楽文化の頂点を支え続けました。

    晩年と死

    視力や健康の衰えにより、1720年代後半から徐々に公的活動を控えるようになります。
    そして、1733年9月11日、パリで65歳の生涯を閉じました

    その死後も、クープランの作品は鍵盤音楽の宝庫として高く評価され、「グラン・クープラン(大クープラン)」と呼ばれることもあります。とくにフランスのクラヴサン作品において、ラモーと並ぶ二大巨匠として位置づけられています。

    雅なる巨匠の素顔に迫る!クープランのエピソード5選

    ここでは、クープランにまつわる、明日話せるエピソードを5つ紹介します。

    クープランのエピソード①音楽家一族「クープラン家」のサラブレッド

    クープランは、何世代にもわたって高名な音楽家を輩出した「クープラン家」に生まれました。叔父のルイ・クープランや父のシャルルも優れたオルガニストであり、まさに音楽のエリート一家。

    その才能は幼い頃から開花し、わずか25歳で国王ルイ14世のオルガニストという、誰もが羨む地位に任命されます。

    エピソード②謎めいた詩的なタイトル

    「謎めいたバリケード」「恋のうぐいす」「ティク・トク・ショク(時計の擬音)」「もの悲しい顔つき」。彼のクラヴサン曲には、このように聴く者の想像力を掻き立てる、不思議で詩的なタイトルが付けられています。

    これは、音楽によって特定の情景や人物、感情を描写しようとする「標題音楽」の先駆けとも言える試みであり、彼の独創性を示すものと考えられています。

    標題音楽が花開くのは、ロマン派時代になってからのことです

    エピソード③イタリア様式とフランス様式の融合

    当時のフランス音楽界では、情熱的で劇的な「イタリア様式」と、優雅で洗練された「フランス様式」のどちらが優れているかという論争が盛んでした。クープランは、両者の長所を取り入れ、融合させることを試みます。『趣味の融合、または新協奏曲集』や『両翼の人、またはフランスとイタリアの様式の融合』といったタイトルの作品で、その高い理想を結実させました。

    エピソード④「オルドル」という独自の組曲形式

    バロック時代、舞曲などを集めた形式は「組曲」と呼ばれるのが一般的でした。しかし、クープランは自らのクラヴサン曲集を「オルドル(順序、秩序)」と名付けます。これは、様々な性格を持つ標題的な小品を、彼独自の感性で自由に配列したものであり、伝統的な組曲形式からの脱却を目指す、彼の芸術家としての自負の表れでした。

    エピソード⑤繊細で病弱な芸術家

    華やかなヴェルサイユ宮殿で活躍する一方、クープランは非常に繊細な神経の持ち主で、しばしば健康を損なったと伝えられています。その内向的でメランコリックな性格が、彼の音楽に深い陰影と、ただ優雅なだけではない複雑なニュアンスを与えているのかもしれません。

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    【初心者向け】ロココの雅、クープランの代表曲3選

    最後に、いつものように代表曲の紹介で終わりとします。
    いつものように、筆者の独断によるものですが、クープランの才能が味わえるラインナップなので、ぜひ聴いてみてくださいね!

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    ① クラヴサン曲集 第2巻より『神秘的なバリケード』

    彼の作品の中で最も有名で、多くのピアニストにも愛奏されえる1曲。3つの声部がアルペジオ(分散和音)で絶え間なく絡み合い、夢幻的でどこか捉えどころのない雰囲気を醸し出す名曲です。タイトルが何を意味するのか(恋人たちの間の障壁、女性のスカート、など)は今なお謎に包まれており、そのミステリアスな魅力が人々を惹きつけてやみません。

    出典:YouTube

    ② クラヴサン曲集 第3巻より『恋のうぐいす』

    クラヴサンの華麗なトリルや装飾音を駆使して、森でさえずるうぐいすの声を模倣した、愛らしくも詩的な一曲です。自然の音を音楽で描写する、彼の優れた才能がいかんなく発揮されています。フルートで演奏されることも多い名曲です。今回はフルート版で。

    出典:YouTube

    ③ クラヴサン曲集 第3巻より『ティク・トク・ショク、またはオリーブ絞り機』

    「ティク・トク・ショク」は時計の規則正しい動きの擬音と、絶え間なく続くリズミカルな動きが心地よい、超絶技巧の小品です。彼のユーモアのセンスと、鍵盤楽器を知り尽くした書法が光ります。

    出典:YouTube

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    クープランの生涯解説:まとめ

    ということで。
    今回は、ヴェルサイユの宮廷を彩ったフランス・バロックの巨匠クープランをご紹介しました。

    この記事のポイント

    • クープランは、ルイ14世、15世に仕えたフランス・バロック最大の巨匠
    • 『クラヴサン奏法』を著し、後世の鍵盤音楽に絶大な影響を与えた。
    • 詩的で謎めいたタイトルを持つクラヴサン曲で知られる。
    • バッハも彼の様式を研究し、高く評価していた。

    まずは『謎めいたバリケード』から、クープランの雅でミステリアスな音の世界に迷い込んでみてはいかがでしょうか。

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