今回は、スクリャービンの幻想曲の難易度、必要なテクニック、そして無料楽譜の入手方法まで分かります。
この記事でわかること
こういったことを紹介します。
記事の前半では、スクリャービン「幻想曲」の難易度や作風について解説し、記事の後半では必要となるテクニックや楽譜を紹介しています。
この記事を読めば、きっと「チャレンジしたくなる」ので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください!
筆者は3歳からピアノを開始。紆余曲折を経て、かれこれ30年近くピアノに触れています(音大には行ってません)。
結論:スクリャービンの幻想曲の難易度は?【プロ級の上級者向け】
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スクリャービンの「幻想曲」は、非常に高い難易度に分類されています。
実際の体験として、「普通の人は弾けないな」というレベル・・・。
「本格的にピアノと向き合った(向き合っている)人」向けの難曲です。
とはいえ、一般的な難易度も気になるところ。
以下では、スクリャービンの「幻想曲」の難易度についてポイントを絞って紹介します。
1つずつ見てみましょう。
スクリャービンの幻想曲:難易度評価
上級の中でも特に難しいレベルです。全音のピアノピースでは出版されていませんが、間違いなく「F」(上級上)に位置する作品です。
この段階にある作品は、ピアノ音楽のレパートリーの中でも、ごく一部の、卓越した技術と音楽性を兼ね備えた演奏家のみが挑戦できる領域と言っても過言ではないかもしれません。
スクリャービンの幻想曲:他作品との比較
ショパンのエチュードやリストの超絶技巧練習曲など、ピアノ音楽における屈指の難曲と並びます。単に指の速さや正確さといった技術的な側面だけでなく、音楽的な表現の幅広さや深さにおいても、ピアニストに非常に高い能力を要求することで知られています。
例えば、ショパンのエチュードOp.10-4は、信じられないほどの速さと正確さを要求し、リストの「マゼッパ」は、圧倒的な音量と表現力で聴衆を魅了します。
スクリャービンの幻想曲 も、これらの作品群に匹敵する、あるいは凌駕するほどの難易度を持つと言えるでしょう。
得意・不得意があるので一概には言えませんが、難易度という意味では合っていると思います。
スクリャービンの幻想曲に必要な技術
演奏には、高度な技術と深い音楽的理解が不可欠。
この作品を演奏するためには、卓越した指のコントロール、複雑なリズムに対する正確な把握力、そして何よりも、楽曲に込められた情熱や神秘性を表現する豊かな音楽性が必要とされます。
演奏者は、単に楽譜に書かれた音符を正確に奏でるだけでなく、その背後にある作曲家の意図や感情を読み解く分析力も大切です。
スクリャービンの他の作品を聴いてみるのも良いでしょう。
スクリャービンの幻想曲とはどんな曲?その魅力を探る
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スクリャービンの幻想曲:作曲時期と背景
本作は1900年に作曲。この時期は、スクリャービンが初期のロマン派的な作風から、徐々に独自の神秘主義的な音楽語法へと移行していく過渡期にあたります。
幻想曲 Op.28は、作風の変遷を如実に示す作品としても重要で、この作品には、初期の作品に見られるようなロマンティックな旋律と、後期の作品に現れるような神秘的で複雑な和声が共存しています。
「ピアノソナタ第3番」と「ピアノソナタ第4番」の間に作曲されています。
スクリャービンの幻想曲:形式について
単一楽章形式の楽曲。
伝統的なソナタ形式を基にしつつも、自由な形式感が際立っており、幻想曲というタイトルが示す通り、即興的な要素も色濃く感じられます。ソナタ形式の枠組みの中で、スクリャービンは自由な発想を駆使し、予測不能な展開や、情熱的なクライマックスを生み出しています。
演奏時間はおよそ10分程度です。
スクリャービンの幻想曲:特徴と魅力
情熱的、神秘的、色彩豊かな響きが特徴です。
この作品は、スクリャービン特有の独特な和声感と、ダイナミックな表現が魅力。
甘美な旋律と激しい情熱が交錯し、聴く者を幻想的な世界へと誘います。スクリャービンの音楽は、色彩感豊かな和声が特徴であり、この幻想曲でも、様々な感情や情景が、音によって鮮やかに描き出されます。
なんと、スクリャービンの作品をモデルとして香水やアロマキャンドルまで発売されています※
※参考|ELLE|クラシック音楽を香りに編曲。「ラニュイ」がスクリャービンの香りを「伊勢丹新宿サロンド パルファン」で先行発売
スクリャービンの幻想曲:演奏効果
演奏効果が高く、コンサートプログラムでも人気の高い作品です。そのドラマティックな展開と圧倒的な音響は、聴衆を強く惹きつけ、演奏会での聴き応えも抜群です。
そもそも「幻想曲とは?」【形式解説】

幻想曲の意味
一般に「幻想曲」とは、形式にとらわれず、作曲者の自由な発想に基づいて書かれた楽曲を指します。作曲家が自身の内なる音楽的なヴィジョンを、最も自由な形で表現するための器と言えるでしょう。幻想曲は、作曲家にとって、形式的な制約から解放され、自身の創造性を最大限に発揮できる、特別な形式と言えます。
歴史
古くはバロック時代から存在しますが、特にロマン派以降に数多くの名曲が生まれました。
バロック時代の幻想曲は、主に即興的な性格が強く、形式も比較的自由なものでしたが、ロマン派の作曲家たちは、この形式を用いて、より主観的で感情や物語性を表現するようになります。
例えば、シューマンの「幻想曲ハ長調」は、ロマンティックな情熱と憧憬が込められた名作であり、リストの「ダンテ交響曲」のピアノ版は、地獄、煉獄、天国という壮大な物語を描いています。
音楽的特徴
即興的な要素、形式の自由さ、感情表現の豊かさなどが挙げられます。
幻想曲は、ソナタ形式やロンド形式といった伝統的な形式に縛られず、作曲家の内なる声に耳を傾け、それを自由に音として表現することを可能にします。
そのため、情熱的な表現や、時に予測不能な展開も、この形式の大きな魅力と言えるでしょう。幻想曲は、作曲家の個性が最も色濃く表れる形式の一つとも言えますね。
作曲家スクリャービンについて知ろう:生涯と作風の変遷
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スクリャービンの生涯についての詳細は、こちらの記事で紹介しています。
同級生だったラフマニノフとのエピソードなども解説しているので、ぜひご一読ください。
ここでは大まかなに「初期・中期・後期」にわけてざっくりと解説します。
スクリャービンについて:初期
ショパンの影響を受け、甘美でロマンティックな旋律と、洗練されたピアノ書法が特徴。
この頃の作品には、ショパンのエチュードやノクターンを彷彿とさせるような、叙情的な美しさがあります。例えば、初期の作品であるピアノソナタ第2番「幻想ソナタ」は、ショパンの影響が色濃く、美しい旋律と和声が特徴です。
中期
独自のスタイルを確立し始めた時期。
和声はより複雑になり、リズムも多様化に。また、哲学者ニーチェや神秘主義的な思想への傾倒が顕著になり、音楽に精神的な深みが加わる頃。
中期の作品では、独自の和声体系やリズムが用いられ、音楽に独特の神秘的な雰囲気が加えられていきます。
例えば、交響曲第3番「神曲」は、人間の精神的な成長を描いた壮大な作品であり、神秘主義的な思想が色濃く反映されています。
スクリャービンの「神秘和音」が登場するのもこの頃です。
後期
神秘主義や無調性へと傾倒していきました。
この時期の作品は、調性が曖昧になり、独特の神秘的な響きを持つようになります。
色彩感豊かな和音と、瞑想的な雰囲気が特徴的。後期の作品では、調性が崩壊し、独特の和声体系が確立されます。
スクリャービンは何派?
後期ロマン派から近代音楽への過渡期に位置づけられ、神秘主義や象徴主義との関連も指摘されます。その音楽は、単にロマン派の延長線上にあるのではなく、その枠を超え、新たな音楽の可能性を追求したものと言えるでしょう。
スクリャービンの音楽は、同時代の作曲家であるドビュッシーやラヴェルとも比較されますが、彼の音楽は、より内面的で精神的な深みを持ち、独自の神秘主義的な世界観が特徴です。
ラヴェルの難曲「水の戯れ」と比較するのも、時代背景を知る上で面白いかもしれません。
スクリャービンの幻想曲の難易度を徹底分析!
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冒頭で紹介したように、本作のレベルは最上級に位置します。
そのため、演奏にはさまざまな技術が必要です。
ここでは、ポイントとなる技術について紹介します。
① 広音域にわたる複雑な和音とアルペジオ
- 10度を超える和音や、捉えどころのない配置が頻出です。各音をバランスよく響かせることが求められるため、高度な技術が必要です。これらの和音を、単なる音の塊としてではなく、各音が持つ響きの色彩を意識して演奏する必要があります(これだけでも難しい)
- 両手を使用した高速アルペジオも多用されます。正確なリズムと均一な音色で演奏する必要があり、指の独立性とコントロールが不可欠です。アルペジオは、時に、メロディーを支える伴奏として、またある時には、情熱的な感情を表現する手段として用いられ、その役割は多岐にわたります。
② 大胆な跳躍と素早い指の動き
- 正確な跳躍のコントロールも必要です。鍵盤上を大きく移動する跳躍は、正確な音程とリズム感を保つのが難しく、高度な空間認識能力と身体的なコントロールが課題。
- 指の独立性と敏捷性が必要となるパッセージも多く見られます。速いパッセージを正確に演奏するためには、各指が独立して動き、かつ素早く反応できる能力が求められます。
③ ポリリズムと複雑なリズム
- 右手と左手で異なるリズムを正確に弾き分ける技術(例:4対5、3対2など)が不可欠です。ポリリズムは、聴き手にとっても複雑に聞こえるため、演奏者はそれぞれの声部を正確に把握し、それを明確に表現する必要も。
- テンポ・ルバート(揺らぎ)の表現も重要な要素です。テンポ・ルバートは、楽譜に書かれたテンポを自由に伸縮させることで、音楽に表情を与える技法ですが、やりすぎると楽曲の構造を損なう可能性があるため、高度な音楽性とセンスが求められます。
④ 表現力:ダイナミクスの幅と色彩感
- 神秘的、情熱的など、多様な曲想を表現する力が必要です。スクリャービンの音楽は、しばしば神秘的、情熱的、瞑想的など、多様な表情を持つため、これらの感情を的確に捉え、音色やリズムに乗せて表現する能力が不可欠です。
- ペダリングによる響きのコントロールも、作品の魅力を引き出す上で重要となります。ペダルは、音を繋げたり、響きを豊かにしたりするために使用しますが、スクリャービンの音楽では、ペダルの使い方一つで、楽曲の印象が大きく変わるため、非常に重要な要素となります。
スクリャービンの幻想曲:楽譜情報【無料楽譜・おすすめ版】
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とりあえず、「どんな感じの作品かな?」と知りたい方は、見てみると良いでしょう。
ただし、注意点もあります👇。
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作曲家の意図を忠実に再現することを目指しており、学術的な価値が高い楽譜です。
世界音楽全集 ピアノ篇 新校訂版/春秋社

細かい解説があり、作曲家への理解が深まります。幻想曲のほか、詩曲集など収録作品も多いのが魅力。
全音楽譜出版社

日本で出版されている楽譜で、丁寧な校訂と解説が特徴。わかりやすい解説もありがたい。
スクリャービン「幻想曲」の難易度解説:まとめ
スクリャービンの「幻想曲」は、非常に高い技術と音楽性を要求される難曲ですが、その奥深い魅力は、挑戦する者を惹きつけてやみません。
この曲にチャレンジすることで、技術だけでなく、音楽的な理解も深まり、自己表現の幅を広げることができるはずです。
「さらなる高みを!」という方は、ぜひ練習してみてください!
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