この記事では、ドイツの作曲家カール・オルフについて解説します。
テレビや映画、スポーツの応援などで、運命の激変を告げるかのように鳴り響く、地響きのような壮大な合唱曲。
「おお、運命の女神よ(O Fortuna)」として知られるこの曲は、ドイツの作曲家カール・オルフのカンタータ『カルミナ・ブラーナ』の冒頭と最後を飾る、強烈なインパクトを持つ音楽です。
「そんなの聴いたことない!」と思う人も多いとおもいます。
でも、絶対に一度は聴いたことがあるはずです!(断言)
この原始的でパワフルな作品のイメージとは真逆で、オルフは子供たちのための音楽教育法の創始者という、もう一つの重要な顔を持っていました。
この記事では、古代のテキストから生命力あふれる音楽を創造し、教育にも情熱を注いだオルフの生涯、その創作の秘密、記事の後半では代表曲を分かりやすく紹介します。
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カール・オルフとは?原始の力と教育の探求者
まずは、オルフがどのような人物だったのか、そのプロフィールをご覧ください。
項目 | 内容 |
---|---|
フルネーム | カール・ハインリヒ・マリア・オルフ |
生没年 | 1895年 – 1982年 |
出身 | ドイツ・ミュンヘン |
功績 | カンタータ『カルミナ・ブラーナ』の作曲、音楽教育法「オルフ・シュールヴェルク」の創始 |
特徴 | 言葉と一体化した強力なリズム、古代や中世の題材 |
代表作 | 世俗カンタータ『カルミナ・ブラーナ』 |
「オルフ・シュールヴェルク」とは?
オルフの功績の大きな柱が、彼が考案した子供たちのための音楽教育システム「オルフ・シュールヴェルク(オルフの音楽工房)」です。
「音楽は実践から」をモットーに、子供たちが生まれながらに持つ表現欲求を解放することを目的としています。歌、動き(ダンス)、そして木琴、鉄琴、太鼓といったシンプルな打楽器を使った即興演奏を通して、子供たちが持つ根源的なリズム感や創造性を引き出すこの教育法は、現在でも世界中の教育現場で実践されています。
ハンガリーの作曲家コダーイなども、独自の音楽教育を生み出しています。
参考|日本オルフ音楽教育研究会
カール・オルフの生涯とは?リズムと言葉の魔術師

20世紀を代表するカール・オルフの生涯について、もう少し深ぼってみてみましょう。
作曲家としてはもちろん、音楽教育にも生涯をかけて力を尽くしました。
幼少期と音楽教育の始まり(1895年〜)
カール・オルフは1895年、ドイツ・ミュンヘンの音楽好きな家庭に生まれました。幼少期からピアノやチェロを学び、作曲にも強い興味を持ちました。早くも10代で歌曲や室内楽を作曲し、ミュンヘン音楽大学で本格的に音楽を学びます。
第一次世界大戦中は徴兵され、健康を損なって帰還。その後は指揮者や作曲家として活動を始め、演劇音楽やバレエ音楽の分野に深く関わるようになります。
影響を受けた古代・民族音楽と独自の様式(1920年代)
1920年代、オルフは古代ギリシアや中世音楽、さらには民族音楽に強い関心を抱くようになります。この時期の出会いが、彼の後年の創作スタイルに大きな影響を与えました。
特に言葉のリズムと打楽器の使い方に対する関心が強く、「音楽=言葉とリズムの結晶」と考えるようになっていきます。
『カルミナ・ブラーナ』の大成功(1937年)
1937年、彼の代表作《カルミナ・ブラーナ》が初演され、大成功を収めます。この作品は、中世のラテン語詩やドイツ語詩をもとにした、合唱と管弦楽による劇的なカンタータで、強烈なリズムと簡潔で原始的とも言えるハーモニーが特徴です。
特に冒頭の「おお、運命の女神よ(O Fortuna)」は、映画やCMでも多用されるなど、20世紀音楽を代表するフレーズの一つとなりました。
ちなみに、「カルミナ・ブラーナ」は中世の放浪学生や修道士の詩を集めた実在の詩集です!
第三帝国との関係と戦後の評価
ナチス政権下で《カルミナ・ブラーナ》が高く評価されたこともあり、オルフとナチスとの関係については議論が分かれます。オルフ自身は「政治に関与していない」と主張し続けましたが、戦後もこの点について批判が存在しました。
ただし、戦後も作曲家・教育者として高く評価され続け、特に教育現場での業績は世界的に注目されました。
音楽教育への貢献と「オルフ教育法」
1940年代以降、オルフは音楽教育にも力を注ぎ、特に子ども向けのリズム・身体表現・即興を重視した**「オルフ教育法(オルフ・シュールヴェルク)」**を提唱しました。
これはドイツ国内だけでなく、世界中の教育現場に広まり、今でも幼児教育や初等音楽教育の基本メソッドとして使われています。楽器演奏だけでなく、言葉、動き、身体表現と音楽の統合を重視する革新的なアプローチでした。
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晩年と死去(1980年代)
オルフは晩年まで創作を続け、《カトゥーリ・カルミナ》《トリオンフォ・ディ・アフロディーテ》など、「カルミナ・ブラーナ」を含む“トリロギア”三部作を完成させます。
1982年、87歳でミュンヘンにて死去。ドイツ南部のアンドクス修道院に埋葬されました。墓碑には「Summus Finis(最高の終わり)」というラテン語が刻まれています。
唯一無二の音楽家!カール・オルフのエピソード5選

ここでは、カール・オルフのエピソードを5つ紹介します。激動の時代を駆け抜けたオルフには、どのようなエピソードがあるのでしょうか。
オルフのエピソード① 『カルミナ・ブラーナ』は、修道院で見つかった詩集が元だった
この壮大な作品は、19世紀初頭に南ドイツのベネディクト会修道院で発見された、13世紀頃に書かれた詩歌集がテキストになっています。放浪の学生や僧侶たちが、ラテン語や中世ドイツ語で、酒やギャンブル、奔放な恋愛、そして運命の無常などを赤裸々に歌ったこの詩集にオルフは強烈なインスピレーションを得て、この唯一無二のカンタータを生み出しました。
エピソード②「私の全作品は、この曲から始まる」
1937年に『カルミナ・ブラーナ』が初演され大成功を収めると、オルフは自らの音楽語法に絶対的な確信を持ちます。彼は出版社の担当者に手紙を書き、「私のこれまでの作品はすべて破棄してほしい。私の全作品は、『カルミナ・ブラーナ』から始まるのだ」と伝えました。彼にとって、この作品との出会いが、真の芸術家としての出発点だったわけです。
エピソード③音楽の原点、リズムへのこだわり
オルフの音楽は、複雑なハーモニーや精緻な対位法よりも、何よりもまず「リズム」が優先されます。打楽器を多用した、時に呪術的とも言えるパワフルで執拗なリズムの反復が、彼の音楽の最大の特徴です。この原始的なリズムのエネルギーが、聴く者の本能を直接揺さぶります。
下記の代表曲を参考にしてください!
エピソード④古代ギリシャ演劇への憧れ
オルフは、音楽、言葉、演劇、踊りが分かちがたく結びついていた古代ギリシャの演劇を、芸術の理想的な姿と考えていました。『カルミナ・ブラーナ』も、単なるコンサート形式の演奏会ではなく、舞台上で情景が演じられる「舞台形式カンタータ」として構想されており、彼の演劇への強い関心を示しています。
エピソード⑤ナチス・ドイツ時代の複雑な立場
『カルミナ・ブラーナ』はナチス・ドイツ時代に初演され、その分かりやすくパワフルな音楽は政権に好まれたため、戦後、彼の戦時中の立場については様々な議論が巻き起こりました。しかし、彼の音楽そのものが持つ、時代やイデオロギーを超えた普遍的な生命力は、今日、世界中で認められています。
【初心者向け】魂を揺さぶるカール・オルフの代表曲3選
最後に、いつものように代表曲を紹介して終わりますね。
筆者の独断ではありますが、オルフの個性がわかりやすい作品を3つ選らんでみました。
ちょっと長めの作品ですが、少しずつ聴いてみるのも面白いかもしれません。
カール・オルフの代表曲①カンタータ『カルミナ・ブラーナ』
オルフの代名詞にして、20世紀音楽の最も有名な作品の一つ。冒頭と最後の、運命の女神の気まぐれを歌う壮大な合唱「おお、運命の女神よ」が圧倒的ですが、「春の訪れ」の喜びに満ちた合唱や、「酒場で」で歌われる男たちのユーモラスな歌など、全編を通して人間の喜怒哀楽が凝縮された一大音楽絵巻となっています。
出典:YouTube
カール・オルフの代表曲②カンタータ『カトゥーリ・カルミナ』
『カルミナ・ブラーナ』、『アフロディーテの勝利』と共に「勝利」三部作をなす作品。古代ローマの詩人カトゥルスの、激しい恋愛詩をテキストにしています。編成は合唱と4台のピアノ、そして打楽器のみという、よりストイックで呪術的な響きが特徴。言葉のリズムが叩きつけられるような、強烈な音楽です。
出典:YouTube
カール・オルフの代表曲③時の終わりの劇
本作はオルフ最後の劇作品。その壮大な構成から「終末劇」とも呼ばれています。本作も古代ギリシャ劇を題材としており、打楽器の多様が、古代の人々の生命力を力強く表現しています。1973年、ザルツブルク音楽祭においてヘルベルト・カラヤンが指揮で初演が行われました。まさに、オルフの作曲家人生の集大成とも言える作品です。
出典:YouTube
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カール・オルフの生涯解説:まとめ
今回は、壮大な『カルミナ・ブラーナ』と、世界的な音楽教育法を生み出した作曲家カール・オルフをご紹介しました。彼の音楽は、現代人が忘れかけた、言葉とリズムが持つ根源的なエネルギーと生命力を、私たちに思い出させてくれます。
この記事のポイント
- オルフは、壮大なカンタータ**『カルミナ・ブラーナ』**の作曲家として世界的に有名。
- 子供のための音楽教育法**「オルフ・シュールヴェルク」**の創始者でもある。
- 彼の音楽は、強力なリズムと言葉が一体となった、原始的なエネルギーが特徴。
- 古代や中世のテキストにインスピレーションを得て、普遍的な人間のドラマを描いた。
まずは『カルミナ・ブラーナ』を全曲通して聴いて、その圧倒的なパワーと、人生の喜怒哀楽を巡る壮大なドラマを体感してみてはいかがでしょうか。
カンタータ(Cantata)は、もともと「歌われるもの」という意味のイタリア語に由来する音楽形式で、声楽と器楽(楽器の伴奏)を組み合わせた作品のことです。
大きな特徴は以下の3つ。
時代はバロック時代(1600〜1750年ごろ)に特に盛んでした。