この記事では、ロシアの作曲家アレクサンドル・スクリャービンの代表曲を紹介します。
ショパンに多大な影響を受けたスクリャービンは、のちに神秘主義的思想に傾倒し、
独自の表現方法を確立しました。
その美しくも深遠な響きは、現在も多くのクラシック音楽ファンから愛されています。
惜しいことに、43歳という若さでこの世を去ったスクリャービンですが、
ピアノ曲をはじめ、管弦楽曲の分野で多くの名曲を残しました。
名作揃いの中から7曲を選ぶのはチョット無理がありますが、
いつものようにざっくりと解説しますので、ぜひ最後までお読みいただき、
お楽しみください。
そのほか、作品の特徴や最高傑作についても併せて紹介しています。
なお、スクリャービンの生涯についてはコチラをご参照ください。
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スクリャービンの代表曲7選
神秘的な作品が聴衆を魅了する、スクリャービンの作品にはどのようなものがあるのでしょうか。
皆さんがお好きな曲も入っているかもしれません。
毎度のことながら、選曲は筆者の独断と偏見によるものです。
幅広く知っていただくという観点から、有名曲でない作品も含まれます。
その点について、あらかじめご了承いただければ幸いです。
スクリャービンの代表曲その1、ピアノソナタ第2番「幻想ソナタ」- 海の詩情を奏でる傑作
1897年に完成したこの作品は、黒海の風景に着想を得ています。
全2楽章構成で、第1楽章は夜の静かな海を、第2楽章は荒れ狂う嵐を描写しているとされます。
また、繊細かつ色彩豊かなピアノのテクスチャーで、
後のフランス印象派音楽を予見するような斬新さも魅力です。
ショパンの抒情性とベートーヴェンの緊密な構成を融合させつつ、
スクリャービン独自の音楽語法が芽生えつつあることが感じられる作品です。
近年、その詩的な美しさと斬新さが再評価され、
コンサートプログラムや録音で取り上げられる機会が増えています。
スクリャービンの代表曲その2、ピアノソナタ第3番 – 過渡期の傑作が織りなす音の万華鏡
「心髄の様相」という副題を持つこの4楽章構成のソナタは、
スクリャービンの創作における重要な転換点を示しています。
初期の作風を保ちつつも、後の神秘主義的な作風への萌芽が感じられる、
まさに過渡期の傑作と言えるでしょう。
特に第3楽章は、スクリャービン自身が「ここで星たちが歌う!」と叫んだと伝えられており、
宇宙的な雰囲気に満ちています。
この楽章では、繊細な和音の連なりと透明感のある旋律線が、
まるで夜空に輝く星々のように聴こえてきます。
スクリャービンの代表曲その3、ピアノソナタ第10番 – 昆虫たちの舞踏が織りなす音の万華鏡
「トリル・ソナタ」や「昆虫ソナタ」の愛称で親しまれるこの晩年の作品は、
スクリャービンの音楽的発展の到達点の一つと言えます。
頻繁に用いられるトリルとトレモロは、
作曲者の言葉を借りれば「太陽の口づけである昆虫たち」を表現しているとのこと。
この作品では、伝統的なソナタ形式を保ちつつも、
無調に近い大胆な和声法が駆使されています。
しかし、後期作品としては比較的協和的な響きを持っており、
聴き手を不思議な音の世界へと誘います。
増音程と減音程が交錯する序奏から始まり、半音階的な主題が展開されていく様は、
まるで万華鏡のように絶えず変化し続ける音の風景を描き出しているようです。
スクリャービンの代表曲その4、ピアノ協奏曲 – 初期の傑作に垣間見える独創性の芽生え
1896年から1897年にかけて作曲されたこの協奏曲は、
スクリャービンの初期作品の中でも特に重要な位置を占めています。
ショパンの影響を強く感じさせる抒情的な表現がある一方で、
スクリャービン独自の個性が随所に見られます。
独特のリズム語法や調性の選択、左手の超絶技巧などが特徴的で、
簡潔ながらも緊密な楽曲構成や、どこか翳りのある物憂げな表情など、後年のスクリャービン作品の特徴を予感させる要素が随所に見られます。
管弦楽法に関しては、スクリャービンの師であるリムスキー=コルサコフが難色を示したというエピソードも興味深く、若きスクリャービンの独創性と固い意志が感じられます。
ショパンの『ピアノ協奏曲』と聴き比べてみるのも面白いかもしれません。
スクリャービンの代表曲その5、交響曲第3番「神聖な詩」- 壮大な音楽宇宙が織りなす哲学的交響詩
1904年頃に発表されたこの交響曲は、スクリャービンの中期作品を代表する大作。
「闘争」「悦楽」「神聖なる遊戯」という3つの楽章で構成され、各楽章が切れ目なく演奏されます。
この作品では、スクリャービンの哲学的思想が音楽に昇華されています。
人間の魂の進化や宇宙との一体化といった壮大なテーマが、
複雑な和声法と色彩豊かなオーケストレーションによって表現されているのが特徴です。
また、本作の興味深い点は、この交響曲がピアノで演奏された際の印象深さです。
スクリャービン自身のピアノ演奏が、オーケストラ版以上に作品の本質を伝えていたという証言も残されており、彼の音楽の本質がピアノという楽器に深く根ざしていたことを物語っています。
演奏時間はおよそ1時間という大作です。
スクリャービンの代表曲その6、未完の野心作「神秘劇」- 芸術の総合を目指した壮大な構想
最後の野心作となったこの「神秘劇」は、彼の死により未完に終わりましたが、
その構想の壮大さは音楽史に大きな影響を与えています。
この作品では、音楽だけでなく、視覚、嗅覚、触覚までもが一体となった「共感覚的」な体験を創出することが目指されていました。
ヒマラヤ山脈の麓で一週間にわたって上演され、
世界の終焉と人類の高次元への進化を表現するという、まさに芸術の極限に挑戦する試みでした。
スクリャービンの死後、72ページに及ぶスケッチが発見され、
その後、音楽家アレクサンドル・ネムティンによって28年の歳月をかけて補筆されました。
完成版は「宇宙」「人類」「変容」の3部構成で、演奏時間は3時間に及びます。
この作品からは、音楽の枠を超えて、芸術そのものの本質に迫ろうとしたスクリャービンの哲学的探求の深さを垣間見ることができます。
スクリャービンの代表曲その7、12の練習曲 作品8 – 技巧と表現の融合が生み出す詩的な小品集
1894~95年に作曲されたこの練習曲集は、ショパンの影響を強く受けつつも、
スクリャービン独自の音楽語法が芽生えつつある興味深い作品群です。
特筆すべきは、ポリリズムやポリメートルム、クロスフレーズといった、
当時としては斬新な技法が随所に用いられていることです。
これらの技法は、単なる技巧的な難しさを超えて、新しい音楽表現の可能性を切り開くものでした。
なかでも第12番は、スクリャービン自身のピアノロール録音が残されているほか、
20世紀を代表するピアニスト、ウラジーミル・ホロヴィッツのレパートリーとなったことで特に有名です。
激しい情熱と繊細な叙情性が共存する、まさにスクリャービンの音楽性を象徴する1曲と言えるでしょう。
スクリャービンの作品の特徴や魅力について
スクリャービンの作品は、神秘的で宇宙的な深遠さが込められています。
その作品群はドビュッシーやシェーンベルクらと共に、20世紀音楽の革新をもたらし、
後世のクラシック音楽に多大な影響を及ぼしました。
以下では、そんなスクリャービンの作品の特徴を4つ紹介します。
スクリャービンの作品の特徴や魅力その1、神秘和音が織りなす魔法の世界
スクリャービンの音楽は、色彩豊かな和声が特徴です。
「神秘和音」と呼ばれる独自の和音構成を使い、幻想的な響きを作り出しました。
例えば『ピアノソナタ第5番』では、この和音が効果的に用いられています。
聴いていると、まるで万華鏡のような音の世界に引き込まれるのではないでしょうか。
その独特の響きは、多くの音楽愛好家を魅了し続けています。
スクリャービンの作品の特徴や魅力その2、宇宙の神秘に触れる体験
彼の作品の魅力は、強い精神性にあります。
というのも、スクリャービンは音楽を通じて高次の意識状態に達することを目指していたからです。
『交響曲第4番「法悦の詩」』は、まさにその代表例と言えるでしょう。
この曲を聴けば、まるで宇宙の神秘に触れるような体験ができるかも・・・。
スクリャービンの音楽は、単なる娯楽を超えた深い体験ができるのが魅力です。
スクリャービンの作品の特徴や魅力その3、ロマン派から前衛へ
彼の音楽スタイルは、時代とともに大きく進化しました。
初期のショパン風の作品から、後期の前衛的な作品まで、幅広い表現を楽しめます。
例えば、初期の『12の練習曲 作品8』と後期の『ピアノソナタ第10番』を聴き比べると、
その変化に驚くのではないでしょうか。
一人の作曲家の中に、音楽の歴史が詰まっていることが垣間見えます。
スクリャービンの作品の特徴や魅力その4、「神秘和音」とは?
神秘和音は、スクリャービンの後期の作品で特徴的に使用された和音構造。
「スクリャービン=神秘和音」といっても過言ではないかもしれません。
神秘和音の特徴は以下の通り(チョット理論の話です)。
- 構造:主に4度(完全4度と増4度)を積み重ねて構成されています。
- 基本形:C – F# – Bb – E – A – D
- 調性の曖昧さ:従来の長調や短調の枠組みを超えた響きを持ちます。
- 象徴的意味:スクリャービンの神秘主義的な思想を音で表現したものとされています。
- 使用例:「プロメテウス:火の詩」op.60や「ピアノソナタ第6番」op.62などで顕著に使用されています。
この和音は、従来の三度積みの和音とは全く異なる響きを生み出し、
音楽理論的にも革新的で、20世紀以降の現代音楽にも大きな影響を与えました。
G音(ソ)を基準とした神秘和音 引用:wikipedia:神秘和音より
スクリャービンの最高傑作について
どの作品を候補に挙げるかいつも迷いますが、それはスクリャービンでも同じです。
集大成という意味では『神秘劇』をあげるのが正解だと思いますが、
今回はあえて『交響曲第5番「焔の詩」ープロメテ』としました。
というのも、本作はスクリャービン最後の交響曲であり、
神秘和音がもっとも顕著かなと思ったので・・・。
交響曲第5番「焔の詩」ープロメテーについて
本作はスクリャービンが1910年に作曲した、最後の交響曲です。
とはいえ、オルガンやハープを含めた大編成のオーケストラに、
混声合唱とピアノを合体させているため、実質的には『ピアノ協奏曲』的作品となっています。
20世紀の音楽を象徴する「無調」と「不協和音」、そしてスクリャービンの神秘和音の融合が特徴です。全体としては「ソナタ形式」で作曲されていますが、
単一楽章として演奏されます。演奏時間はおよそ25分です。
作曲当初、鍵盤によって照明の色を操作するという実験的試みが計画されましたが、
故障により実現されませんでした。
作品のタイトルにもなっているプロメテウスとは、
ギリシャ神話に登場する神の名前です。
最高神ゼウスの反対を押し切り、人間に火を与えた神として知られており、
あるいは人間を作った神とも言われています。
スクリャービンの代表曲まとめ
ということで、今回はスクリャービンの代表曲や作品の特徴について紹介しました。
スクリャービンの作品を聴いていると「時代の変わり目だったのだな」というのが実感できると思います。
これまであまり作品を聴いたことがなかった方は、
小品集やピアノソナタから聴き始めるとよいかもしれません。
きっと、新たな音楽体験ができると思いますよ!