今回はワーグナーの最高傑作の1つ『ニーベルングの指環』を紹介します。
正直、全部聴いたことある人は滅多にいない(と思う)作品ですが、
クラシック音楽に燦然と輝く名作であることは間違いありません。
というか、ある意味頂点の1つと言っても過言ではないでしょう。
日本で全曲演奏されることはほとんどありませんが、
ドイツのバイロイト音楽祭では毎年の目玉作品として現在も大人気の作品群です。
今回もいつもながらざっくり解説なので、
ぜひ最後まで読んでいただき、教養の一助となれば幸いです。
まだワーグナーシリーズを読まれていない方は、
以下の2記事も併せて参考になさってみてください!
ワーグナー楽劇の最高傑作『ニーベルングの指環』とは
一口に『ニーベルングの指環』といっても、
実はこの作品は、4作で構成されています。
それを1記事で全部紹介するのはちょっと無理がるかなと思いますが、
1作品ずつ超絶簡単に解説するので、
ぜひお付き合いください。
ワーグナーのライフワーク
『ニーベルングの指環』は1848年、ワーグナー35歳の時に作曲が開始され、
1874年に完成した長大な楽劇です。
ざっくりと物語を説明すると、
「ラインの黄金」で作られたといわれる、
世界を支配するほどの力を持った「指輪」をめぐる物語です。
『ロード・オブ・ザ・リング』的な世界観を想像してくださればよいかも・・・。
完成までに26年間を費やしたことからも、
ワーグナーにとっての最高傑作と言えるでしょう。
本作は4部作で構成されており、
全作を演奏するのに約15時間を要する超大曲です。
とはいえ、15時間続けて演奏されるわけではなく、
物語ごとにわけて4日間かけて演奏されます。
また、台本もワーグナー本人によって執筆されました。
4作品は以下の通り。
これら4作品をまとめて『ニーベルングの指環』という壮大な物語が展開されます。
作曲当初は北欧神話で伝わる物語「ジークフリートの死」をモチーフにしましたが、
制作過程で構想がどんどん膨らみ、現在の形となりました。
世界初演で訪れた作曲家たち
作品完成まであまりに時間がかかったため、
ワーグナーの支援者だったバイエルン国王ルートヴィヒ2世から、
「完成した順に上演するように」とまで言われた本作。
すでに完成していた『ラインの黄金』『ワルキューレ』から上演され、
それぞれ1869年、1870年に初演を迎えました。
全曲完成後、1876年に第1回バイロイト音楽祭にて全曲初演が行われ、
客席にはフランツ・リストやアントン・ブルックナー、チャイコフスキーなどが訪れたと言われています。
ワーグナーの最高傑作『ニーベルングの指環』より、序夜「ラインの黄金」
ということで、それぞれ解説していきます。
まずは序夜『ラインの黄金』から。
サクサクいかないと終わらないので、
さらっといきます。
「ラインの黄金」について
本作は『ニーベルングの指環』の序夜にあたる作品です。
この作品により、ワーグナーは既存のオペラとは異なる「楽劇」というジャンルを開拓し、
クラシック音楽の歴史に新たな1ページを刻みました。
1852年に台本が完成し、2年後の1854年に作曲が完成されています。
全1幕4場で構成されており、演奏時間は2時間30分程度です。
「なが!!」
と思われた方もいると思いますが、
本作は4作品中でもっとも短い作品です(笑)。
北欧神話やドイツの叙事詩「ニーベルンゲンの歌」、
さらにはギリシャ神話など、さまざまな分野が交差する重厚感のある物語となっています。
上述した通り、部分初演として最初に上演されましたが、
ワーグナーは単独で上演することに反対したそうです。
とはいえ、支援者の申し出には逆らえなかったようですね。
「ラインの黄金」のあらすじ
4作の中でもっとも短い作品とはいえ、
全部見るのは大変ですよね。
と言うことで、いかに簡単なあらすじを紹介します。
要約するとこんな感じの物語です👇
【黄金への執着が生む呪い】
ライン川の淵に眠る黄金。
この黄金を手に入れた者に、世界を支配する力が宿るという。
しかし、その代償は高かった・・・。
「愛を永遠に捨てなければならない」
この呪いの条件を気にすることなく、
ニーベルングの小人アルベリヒは黄金を手に入れてしまう。
さらに黄金から、全知全能の指環を造り上げた。
「この指環があれば、俺がこの世界の支配者になれる!」
しかし、強欲なアルベリヒの野望は遠からず阻まれることになり、
力ずくで巨人に黄金を奪われてしまいます。
【神々の城ヴァルハラ】
一方、世界の主宰神ヴォータンは、
壮大な城「ヴァルハラ」の建設に着手していた。
しかし、建設の報酬となる黄金が払えず・・・。
そこでヴォータンは、アルベリヒから奪われた黄金を、
巨人たちへの支払いに使おうと考えた。
「この呪いの黄金を手に入れれば、夢のヴァルハラが完成する」
巨人に黄金を手渡したヴォータンは、ようやくヴァルハラを手に入れることに成功。
しかし、やがて黄金の呪いを恐れ、それを川に投げ捨ててしまう。
世界支配を夢見た者たちの野望は、愛を捨てた呪いの代償を払うことになり、
黄金への執着が、破滅への道を開くきっかけとなったのでした。
「ラインの黄金」の有名曲
本作の中でもとくに有名な曲が「ヴァルハラ城への神々の入場」です。
7分程度と短い作品ですの、この記事をきっかけに聴いてみてください!
ワーグナーの最高傑作「ニーベルングの指環」より「ワルキューレ」
続いて『ワルキューレ』です。
本作は『ラインの黄金』を除く「3部作」の1作目となります。
誰でも1度は聴いたことがある作品も登場する名作です。
「ワルキューレ」について
単独上演を嫌ったワーグナーですが、
本作は現在でも頻繁に単独で上演される人気楽劇です。
ワーグナーが得意としたライトモチーフが随所に使用され、
まさに、演奏効果の高い作品と言えるでしょう。
全3幕で構成されていて、
上演時間はおよそ3時間40分です。
「ワルキューレ」という名前を聞いたことがあると思いますが、
「ワルキューレ」とは、神々の長老ヴォータンの娘の1人ブリュンヒルデのことを指します。
北欧神話に登場する女神で、盾乙女として登場します。
ゲームの「ヴァルキリー・プロファイル」の元ネタですね。
1854年から作品に着手し、1856年に完成しました。
「ワルキューレ」のあらすじ
【双子の運命】
ヴォータンの双子の子、ジークムントとジークリンデ。
ふたりは運命づけられた愛を育むが、ジークリンデはその後ひどい目に遭う。
「許されぬ愛を捨てよ」
ヴォータンはジークリンデを罰し、ワルキューレ(戦乙女)の資格を剥奪する。
しかし、ジークムントを守ろうとしたジークリンデは、
ヴォータンの怒りにふれて死んでしまう。
【父と娘の対決】
一方、ジークムントとその妻ジークリンデは、赤子ジークフリートをもうける。
ヴォータンはこの子を恐れ、森の小人ミーメに育てさせることにした。
やがて成長したジークフリートは、偶然のきっかけから父ジークムントと対面する。
しかし、ヴォータンに殺されてしまう。
【ワルキューレの最期】
最後に、ジークリンデとも対面したヴォータン。
しかし娘は命がけで弟ジークフリートを守ろうとする。
ヴォータンは仕方なくワルキューレの一員であるジークリンデを永遠の眠りに堕とすことに。
「ワルキューレ」の有名曲
おそらくワーグナーの作品の中で一番有名だと思われる名曲です。
映画やCM等、さまざまなメディアで現在も使用されていますね。
曲名は「ワルキューレの騎行」です。
ワーグナーの最高傑作『ニーベルングの指環』より「ジークフリート」
『ラインの黄金』を除いた、3部作の第2作目となるのが「ジークフリート」です。
本作は1851年に『若きジークフリート』として構想されましたが、
のちに加筆され1863年に、現在の「ジークフリート」に改題されています。
「ジークフリート」について
こちらも脚本も、もちろんワーグナー作。
1856年から作曲が開始され、一時期中断されたものの、
1869年におよそ13年をかけて完成されました。
本作でも、ワーグナー得意のライトモチーフが多様されており、
登場人物や背景描写の多層的な演出が特徴です。
なかでも、
・思案の動機
・財宝の動機
・ニーベルング族の動機
・苦痛の動機
・森のさざめきの動機
・「覚醒の動機
などが有名です。
本作も3幕で構成され、演奏時間は4時間弱の超大作です。
ちなみに「ジークフリート」とは、
ゲルマン神話に登場する「竜殺し」の異名を戦士のこと。
「ジークフリート」のあらすじ
ざっくりとしたあらすじは以下の通りです。
【剣を手にした勇者の誕生】
森の小人ミーメの元で育てられたジークフリート。
ある日、剣を作ることを覚え、自らが造った剣”ノートゥング”を手に入れる。
この剣を振るう勇者として、ジークフリートの冒険が始まる。
「おまえの親は誰だ?」
ミーメに親を問われても答えられないジークフリート。
真相を知らぬまま、世に放たれていく。
【竜を退治せよ】
ミーメに案内されたジークフリートは、巨大な竜ファフナーに遭遇する。
ファフナーが守っていたのは、かつてアルベリヒから奪われた呪いの指環だった。
「畏れを知らぬ馬鹿者め!」
ファフナーはジークフリートをおとしめようとするが、ノートゥングの剣で倒される。
ジークフリートは指環と、竜の血を浴びて”野獣の言葉”を理解する叡智を手に入れた。
【森の小鳥とブリュンヒルデ】
その後、ジークフリートは森の小鳥から、眠りに落ちている”最高にすばらしい女”がいると教えられる。それがワルキューレのブリュンヒルデだった。
ジークフリートは魔の火の環を突破し、眠れる乙女ブリュンヒルデと出会う。
ふたりは恋に落ちるが、ブリュンヒルデの過去の秘密が語られることはなかった。
「ジークフリート」の有名曲
せっかくですので、1つくらい全曲を載せてみます。
こちらの上演は4時間ですね。
また、ワーグナーには「ジークフリート」の名を冠した作品がもう1つあって、
そっちの方も有名です。
楽劇ではありませんが「ジークフリート」内のモチーフが使われています。
ジークフリート牧歌
この作品は、ワーグナーの妻コジマのために作曲されました。
穏やかで、安らぎのある作品です。
ワーグナーの最高傑作『ニーベルングの指環』より「神々の黄昏(だそがれ)」
ざっくり解説もいよいよラスト。
ラストは、3部作第3作となる「神々の黄昏」です。
長い物語は、本作で完結を迎えます。
そしてワーグナー自身にとっても、作曲家人生の集大成と言える作品です。
「神々の黄昏」について
本作は1863年に台本が販売され、
1869年から作曲が開始されました。
こちらも全3幕で、演奏時間は4作中最長の4時間20分とされています(長すぎる)。
しかしその分名曲も数多く、
・序曲
・「夜明け、ジークフリートのラインへの旅」
・「ジークフリートの葬送行進曲」
・「ブリュンヒルデの自己犠牲」
などは管弦楽版として、しばしば単独でも演奏されます。
3部作最後の作品ですが、
実は『ニーベルングの指環』を制作するにあたり、
最初に構想されたのが「神々の黄昏」でした。
つまりワーグナーは本作の結論から遡って、
今回紹介した上記3作を作成したわけです。
本作を完成さえたワーグナーは、自筆の楽譜の最終ページに、
「1874年11月21日、ヴァーンフリート荘にて完成。もう何も言うまい!」という感慨無量とも取れる書き込みを残しています。
「神々の黄昏」のあらすじ
以下ざっくりとあらすじ紹介です。
【復讐への道】
ジークフリートはブリュンヒルデと別れ、王国ギブリヒへ向かう。
そこで王グントゥナーの妻グートルーネに魔薬を盛られ、記憶を失ってしまう。
グートルーネの計らいでブリュンヒルデと結婚させられる。
ブリュンヒルデは裏切られた恨みから、ジークフリートを殺そうと企む。
一方、グートルーネの兄ハーゲンは、指環と無窮の力を手に入れたくてジークフリートを利用する。
【竜の呪いの行く末】
ハーゲンに扇動されたグントゥナーは、ジークフリートを狩りに連れ出す。
ジークフリートは森の小鳥に忠告されるが、ハーゲンの槍に背中を撃たれ死んでしまう。
指環はハーゲンの手に渡るが呪いのために争いが起こり、
ついにはギブリヒ家はみな滅亡する。
【ワルキューレの帰還】
一方、ブリュンヒルデは事の顛末を知り、故郷の岩に戻り自らを焼く。
指環を取り返そうとするハーゲンは、ブリュンヒルデに殺される。
指環は浄化されてライン川に還り、ワルキューレ姉妹たちが再び集う。
かつてアルベリヒのために生まれた呪いに満ちた指環によって、
神々の世界と人間の世界は終焉を迎えたのだった。
「神々の黄昏」の有名曲
本作でもっとも演奏機会の多い作品といえば『ジークフリートの葬送行進曲』です。
荘厳にして壮大、ドラマティックな展開が聴く人を圧倒します。
まさに、長編ファンタジーが目に浮かぶような重厚な作品です。
ワーグナーの最高傑作『ニーベルングの指環』まとめ
今回はワーグナーの最高傑作であり、集大成でもある『ニーベルングの指環』について紹介しました。
超ざっくりですが、
「4作品あって、それぞれ有名な曲があるんだな」ということがわかってもらえれば、
それでOKです。
詳しい物語や音楽については、専門書をご参考にしてください。
もしくは、神話を実際に読んでみるのも楽しいかもしれませんね。
正直に言うと、ワーグナーの最高傑作が本当にこれかというと、
多くの異論があるかもしれません。
しかし、ワーグナーがその生涯をかけて完成させた大曲であることは、
間違いありません。
この記事が、少しでも皆さんの参考になることを願っています。
次回は、少し趣向を変えてハチャトゥリアンの予定です。
そちらもぜひ楽しみにしていてください!
・序夜『ラインの黄金』
・『ワルキューレ』
・『ジークフリート』
・『神々の黄昏(たそがれ)』