今回はジャン=バティスト・リュリのおすすめ代表曲を6曲紹介します。
製粉業を営むごく普通の少年が太陽王ルイ14世に寵愛され、
フランス・オペラに新風を巻き起こしたことは、音楽史上でも稀有なことかもしれません。
また、リュリは作曲技法においても革新をもたらし、
その後のオペラに多大な影響を及ぼしました。
近年では上演される機会は少なくなったものの、
彼の音楽を知ることは、きっとクラシック音楽の楽しさを広めてくれるはずです。
そこで本記事では、リュリのおすすめ代表曲6曲と、
作品の特徴をざっくりと解説します。
こちらの記事ではリュリの生涯について書いているので、
併せてお読みいただくと、より理解が深まりますよ!
リュリのおすすめオペラ6選
抒情悲劇(じょじょう・ひげき)という新しいジャンルをフランスにもたらしたリュリ。
生涯で数多くの優れたバレ、オペラ、付随音楽を作曲し、
オペラの世界に新しい表現をもたらしました。
リュリの代表曲その1:プシシェ (1671年)
本作は、フランスの劇作家モリエールと作曲家リュリが手を組んで作り上げた音楽劇。
古代ローマの物語『黄金のロバ』に登場する、美しい少女プシシェと愛の神キューピッドの恋物語を題材にしています。
初演は、フランス国王ルイ14世の前で、パリにあるチュイルリー宮殿の劇場で華やかに行われました。
残念ながら、リュリが作曲した音楽は現代に伝わっていませんが、
後に作曲家シャルパンティエが新しい音楽を作曲しています。
この作品は、愛、美、そして信頼をテーマにした心温まる物語で、
バレエと音楽が織りなす壮大な舞台芸術として、
フランスバロック音楽の素晴らしさを今に伝えています。
リュリの代表曲その2:アルセスト (1674年)
本作はギリシャ神話を題材にした、愛と犠牲の物語を描いています。
テッサリアの王妃アルセステは、死の危機に瀕した夫アドメテの身代わりとなって自らの命を捧げることを決意します。
この作品は、フランスの勝利を祝うために作られ、華やかな舞台と壮大な音楽で観客を魅了しました。海の精や風の神など、超自然的な存在も登場し、ファンタジックな要素も満載です。
アルセステを救うためにヘラクレス(アルシド)が冥界まで降りていくシーンは印象的。
最後は高潔なヘラクレスの行動によって幸せな結末を迎え、
真実の愛の勝利を描いた感動的な作品として、今でも高く評価されています。
組曲版もありますので、まずはそちらから聴いてみてください!
リュリの代表曲その3:ファエトン (1683年)
ギリシャ神話の太陽神の息子ファエトンを主人公にした音楽劇です。
父親の太陽神から太陽の馬車を操る許可を得たファエトンですが、
その傲慢さゆえに破滅へと向かっていきます。
この作品は、「民衆のオペラ」と呼ばれるほど一般の人々に愛された作品でしたが、
ヴェルサイユ宮殿での初演後、パリでも上演され大好評を博しました。
実は、この物語には当時の政治的な意味も込められており、
「太陽王」と呼ばれたルイ14世への教訓として解釈することもできます。
リュリの代表曲その4:アルミード (1686年)
十字軍の時代を舞台にした物語で、美しい魔女アルミードと勇敢な騎士レノーの恋を描いています。他のリュリの作品と違い、アルミードという一人の人物の心の揺れ動きに焦点を当てているのが特徴です。
当時の批評家たちがリュリの最高傑作と評価したこの作品は、
登場人物の心理描写が特に優れており、後の時代の音楽劇にも大きな影響を与えました。
フランス・バロックオペラの傑作のみならず、
オペラ全体の中でも高い評価を獲得しており、現在でも高い人気を誇ります。
リュリの代表曲その5:イシス (1677年)
古代エジプトの女神イシスの物語を基にした音楽劇です。
この作品には宮廷での出来事が隠されているとされ、特に話題を呼びました。
実は、物語に登場する人物たちは、ルイ14世とその愛人たちの関係を暗示していたと言われています。
このスキャンダルのため、リュリと台本作家キノーの関係は一時的に悪化し、
多くのスタッフが解雇される事態となりました。
しかし、音楽的な完成度は非常に高く、リュリの出版された最初の楽譜となりました。
リュリの代表曲その6:アマディス (1684年)
それまでの神話物語とは異なり、騎士道物語を題材にした画期的な作品で、
ルイ14世自身がこのテーマを選んだと言われています。
特に有名なのは「深い森よ(Bois épais)」というアリアで、当時のフランス中で親しまれました。この作品は、パリだけでなく、アムステルダムやブリュッセルなど、ヨーロッパの様々な都市で上演され、大きな反響を呼びました。
これらの作品は、17世紀フランスのバロック音楽を代表する傑作として、現代でも演奏され続けています。
リュリは音楽と物語を見事に融合させ、当時の社会や文化を反映させながら、
普遍的な人間ドラマを描き出すことの名手でもあったようです。
リュリの作品の特徴について
フランス・バロック・オペラに抒情悲劇という新ジャンルを確立したリュリ。
それ以外にも、彼が西洋音楽史に残した功績は偉大なものでした。
いかに簡単に見てみましょう。
リュリの作品の特徴その1:近代オーケストラの先駆者(17世紀後半)
リュリは、5部構成の弦楽セクションを基本とし、管楽器を組み合わせた大規模な楽器編成を確立しました。
具体的には、24本のヴァイオリンを中核とし、12本のオーボエ、リコーダー、横笛などの管楽器、さらにリュート、ギター、チェンバロによる通奏低音部を配置。
また、2本のオーボエとファゴットによる「フレンチ・トリオ」という新しい編成も考案し、
後のドイツの作曲家テレマンやファッシュにも影響を与えました。
リュリの作品の特徴その2:フランス「抒情悲劇」の創始(ルイ14世時代)
台本作者フィリップ・キノーと共に、コルネイユやラシーヌの古典悲劇を題材としたフランス独自のオペラ形式「抒情悲劇」を確立しました。
各作品は5幕とプロローグで構成され、プロローグは王の功績を称える内容となっています。
作品の特徴として、フランス語のレチタティーヴォ、大規模な合唱シーン、バレエの幕間舞踊が挙げられ、「ソメイユ」(夢の場面)や「コンバット」(戦いの場面)といった定番シーンも確立しました。
リュリの作品の特徴その3:ヨーロッパ全土への影響(17世紀後半~18世紀)
イギリスではヘンリー・パーセルが影響を受け、『ディドとエネアス』や『アーサー王』(1692年)などで合唱やアリアにリュリの手法を取り入れました。
また、リュリのオペラやバレエの序曲、舞曲は組曲として出版され、
ヨーロッパ中で管弦楽組曲の発展に貢献。
ペラム・フンフリー、ヨハン・シギスムント・クッサー、ゲオルク・ムファットなど多くの音楽家が「リュリスト」として彼の様式を特にドイツとイギリスで広めました。
最高傑作オペラ「町人貴族」について
ここまで、リュリの代表曲や作品の特徴について開設してきました。
バロックらしい楽曲でありながらも、壮大なテーマや人間味のある主題がリュリの魅力と言えるでしょう。
では、「最高傑作ってどの作品かな?」と考えてみると、
筆者としてはオペラ『町人貴族』かなと思っています。
『アルミード』も素晴らしい作品ですが、
『町人貴族』も捨てがたい・・・。
ということで、今回も筆者の独断と偏見により、
本作を最高傑作とさせていただきました。
『町人貴族』について:作品概要と初演(1670年)
本作『町人貴族』は、シャンボール城で1670年10月14日に初演された5幕のコメディ・バレで、モリエールの台本にリュリが音楽を担当。また、各幕はそれぞれ2、5、16、5および6場で構成されています。
ピエール・ボーシャンによるバレエ、カルロ・ヴィガラーニの舞台装置、ロラン・ダルヴューのトルコ風衣装など、当時の一流アーティストが集結した作品です。
特徴的なのは、フランス語以外にもスペイン語、イタリア語、サビール語(リングワ・フランカ)が使用されている点です。
オスマン帝国の大使が1669年に太陽王ルイ14世の宮廷を訪れた際に、
オスマン帝国の宮廷が、太陽王の宮廷よりも優れていると発言したスキャンダルに題材をとっているそうです。
『町人貴族』の簡単なあらすじ
裕福な布商人の息子として育ったジュルダンは、中流階級(ブルジョワ)から貴族への階級上昇を夢見る中年男性。
彼は上流階級の仲間入りを果たすため、新しい衣装を誂え、
フェンシング、ダンス、音楽、哲学など、貴族の嗜みとされる芸術を必死に学びます。
しかし、その姿は周囲の笑いを誘うばかりでした。
やがて彼の野心は次第にエスカレートし、自身は侯爵夫人ドリメーヌとの結婚を、
娘のリュシルには貴族との結婚を望むようになります。
一方で、資金難の貴族ドラント伯爵は、ジュルダンの虚栄心につけ込んで近づき、
「国王に取り次いだ」などと嘘をつき、借金を重ねていきます。
事態を憂慮した聡明な妻のマダム・ジュルダンは、夫に分を知るよう諭します。
しかしジュルダンは聞き入れません。
そんな中、娘リュシルには実は中流階級の恋人クレオントがいました。
クレオントは知恵を絞り、従者のコヴィエルやジュルダン夫人の協力を得て「トルコのスルタンの息子」に扮し、ジュルダン氏に求婚します。
貴族どころか王族との縁組みに有頂天になったジュルダンは、
サビール語(リングワ・フランカ)で行われる滑稽な即位の儀式で騙され、
物語は幕を閉じます。
おもな登場人物
作品の背景と後世への影響
1669年のオスマン帝国大使による外交的スキャンダルを題材に、当時流行していた「トルコ趣味」を取り入れた作品です。
20世紀には、1912年にフーゴ・フォン・ホーフマンスタールによって改作され、
リヒャルト・シュトラウスが新たに音楽を付けました。
また、シュトラウスはリュリの音楽も編曲に取り入れ、
1920年には9曲からなる管弦楽組曲として再構成。
この組曲版は現代でもオーケストラのレパートリーとして演奏され続けています。
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リュリの代表曲:まとめ
ということで・・・。
今回はジャン=バティスト・リュリの作品の特徴やおすすめ代表曲を解説しました。
なんとなくリュリの名前を聞いたことがある方や、
あるいは、まったく聞いたことがない方もいらっしゃると思います。
なので、この記事を通じて「バッハやヘンデル以外にもすごい作曲家がいたんだ」と、
少しでも知っていただければ嬉しいです。
このブログは、上述したようにクラシック音楽への「入り口」です。
ぜひ、皆さんの感性にしたがって、さまざまな作品を発掘してみてください!
など。