今回はロマン派の巨匠ワーグナーの代表曲の紹介です。
既存のオペラの概念を覆し「楽劇」という新しいジャンルを生み出したワーグナー。
一般に彼の作品は長大なものとして知られており
簡単に解説するのはちょっと難しいです。
しかし、この記事ではそこをあえて「簡単」「わかりやすく」紹介したいと思います。
どの作品もワーグナーの代表曲であるばかりでなく、
ロマン派音楽にとっても重要な作品ですので、
ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
また、ワーグナー作品の特徴や魅力についてもザックリ解説していますので、
そちらも併せてご教養の一助となれば幸いです。
ワーグナーの生涯についてはこちら!
ワーグナーのおすすめ代表曲6選!
ワーグナーの登場により、19世紀後期のクラシック音楽は大きな転換点を迎えました。
伝統的なオペラ様式を「楽劇」に進化させ、
壮大なオーケストレーションや長大な舞台作品を生み出したのも、ワーグナーの構成です。
また音楽史上で重要な「標題音楽」か「絶対音楽」という対立を生んだのも、
ワーグナーがきっかけといえるでしょう。
ワーグナーの代表曲その1「リエンツィ」
1840年に作曲した「リエンツィ」は、5幕から成るオペラ作品です。
この作品の原作は、
エドワード・ブルワー=リットンの小説「リエンツィ、最後のローマ護民官」です。
主人公のリエンツィは、
14世紀のローマに実在した政治家コーラ・ディ・リエンツォをモデルにしています。
ワーグナー自身が台本を書き上げ、「大悲劇オペラ」と呼んでいた初期の代表作となりました。
1842年10月20日、本作はドレスデンのゼンパー・オーパーで初演され、
熱狂的な観客の反応を受け、大成功を収めています。
この作品の成功により金銭的な困窮から解放され、
ワーグナーは本格的にオペラ作曲家としての道を歩み始めます。
序曲としても大変有名ですので、
今回は聴きやすい序曲を紹介します。
ワーグナーの代表曲その2「さまよえるオランダ人」
ドレスデンのオペラ総監督に就任したワーグナー。
その後、1841年から本作「さまよえるオランダ人」の作曲に取り掛かります。
この作品のあらすじは、7年に1度しか陸に上がれない船長と、
彼に永遠の愛を誓った女性の物語。
愛の力で船長は呪いから解放されるというファンタジックな設定となっています。
ワーグナーはこの作品で、ドイツ的な伝説の素材を取り入れるとともに、
指揮法の工夫や楽器編成の新機軸を打ち出しました。
1843年1月2日、ドレスデンで「さまよえるオランダ人」が初演されましたが、
当初は観客の反応は芳しくありませんでした。
しかし、後に高く評価されるようになり、ワーグナーを一躍有名作曲家の仲間入りさせる作品となりました。
また本作は、ワーグナーが後に確立する「楽劇」の様式への橋渡しとなった重要な作品でもあります。
1幕形式で、演奏時間はおよそ2時間10分です。
代表曲その3「タンホイザー」
「さまよえるオランダ人」の後、ワーグナーは1843年から「タンホイザー」の作曲に着手しました。
本作は、中世の伝説的な騎士タンホイザーを主人公とする物語です。
舞台は、タンホイザーがヴェヌスベルクの愛の女神に酔いしれた後、
それを後悔して修道院に戻るところから始まります。
しかし同伴者の歌に魅了され、再び愛の誘惑に心を奪われてしまうことに・・・。
このように、作品では肉体的な愛と精神的な愛の対立が描かれています。
一方で、ワーグナーはこの作品で、楽曲と台詞が一体化した「楽劇」の手法を確立しつつありました。
1845年10月19日、ワーグナー本人の指揮で行われたドレスデン宮廷歌劇場での初演は大きな成功を収めることはできず、聴衆の反応も冷ややかなものだったそうです。
しかしワーグナーにとって「タンホイザー」は、
彼が理想とした総合芸術作品「楽劇」への重要な一歩となった作品であり、
現在ではワーグナーを代表する作品として広く愛されています。
作品は全3幕で構成され、上演時間は3時間程度となっています。
序曲の他にも、
「エリザベートのアリア」「大行進曲」「夕星の歌」は単独でも演奏される人気曲です。
代表曲その4「ローエングリン」
「タンホイザー」の成功を受け、1845年から「ローエングリン」の構想を立て始めたワーグナー。
本作は、中世の伝説に基づく「聖杯伝説」を題材としています。
ちなみにローエングリンとは、アーサー王伝説に登場するパーシヴァルの息子で「白鳥の騎士」と称された人物です。
物語は、ブラバントの公爵の娘エルザが、ローエングリンという不思議な騎士に助けられる所から始まります。ローエングリンは、名前や出自を問われてはならない条件付きで、エルザと結婚します。しかしエルザが 出自を問うと、ローエングリンは去っていかざるを得なくなってしまいます。
一方で、この作品でワーグナーは「楽劇」の手法をさらに深化させました。
1850年8月28日、フランツ・リストの協力によりヴァイマール宮廷劇場でリストの指揮により初演されています。
「ローエングリン」は、ワーグナーの「楽劇理論」が完成した代表作と評価されており、この公演の大成功を機に、ワーグナーの芸術性は世界的に認知されるようになりました。
また本作の「結婚行進曲」はワーグナー作品の中でも、
とりわけ人気の高い作品として有名です↓
本作は全3幕で構成されており、
演奏時間はおよそ3時間30分です。
ワーグナーの代表曲(楽劇)その5「トリスタンとイゾルデ」
1857年から「トリスタンとイゾルデ」の作曲に着手したワーグナー。
本作は、ワーグナーが熱心に研究したケルト民族の英雄物語に基づく恋愛悲劇です。
あらすじは、トリスタンがイゾルデを王に嫁がせる途中、二人が恋に落ちてしまうという物語です。しかし二人の恋は葛藤に満ちており、最後は死を選んでしまいます。ワーグナーは、この究極の愛の物語に、自身の恋愛観を投影しています。
また音楽面でも、ワーグナーは当時の常識を覆す新手法を取り入れています。
それこそが、20世紀の音楽に大きな影響を与えた「調性の解体」と、
前奏曲から終わりまで一貫したモチーフを用いる「無限旋律」の確立です。
この斬新な手法は、後の多くの作曲家に多大な影響を与えました。
1865年5月にミュンヘンで行われた初演は、混乱に見舞われながらも徐々に高い評価を受けるようになりました。
そのため「トリスタンとイゾルデ」は、ワーグナーの理論と技術が極限まで高められた、近代オペラの最高峰ともいえるでしょう。
本作によりワーグナーは「楽劇」という形式を完成させ、
オペラの歴史に新たな1ページを刻みました。
全3幕で構成され、
上演時間は約4時間の大作です。
ワーグナーの代表曲(楽劇)その6「パルジファル」
1865年から構想された「パルジファル」。
本作は中世の「聖杯伝説」を題材とした作品であり、
ワーグナーの最後の大作となりました。
初演は構想から40年後の、1882年7月26日。
バイロイト祝祭劇場での初演は大成功を収めました。
物語は、パルジファルが無知の戦士から救世主へと成長していく姿を描いています。
彼は最初は欲望に捕われた存在でしたが、やがて同情の心を持つようになり、
聖杯の守護者として選ばれます。
ワーグナー作品の中でも、彼の宗教観や人生観がもっとも色濃く投影されている作品といえるでしょう。
一方で音楽面では旋律の純粋性が追求され、厳かな雰囲気を創り出しています。
また本作では調性の概念が復活しており、よりわかりやすい手法を取り入れています。
「バルジファル」はバイロイト祝祭劇場での上演のために作曲されており、
1913年まで同劇場以外での演奏は禁止されていました。
しかしワーグナーの死後30年が経過したのち、
著作権が切れたことをきっかけに、世界中で上演されることとなりました。
こちらも全3幕の構成で、
上演時間はおよそ半年4時間半の大作です。
ワーグナー作品の特徴や魅力
作曲家・指揮者・思想家・評論家などさまざまなジャンルで活躍したワーグナー。
ときに彼の思想は、社会に大きな波紋を呼ぶものでもありました。
しかし一方、音楽面においては「無限旋律」や「ライトモチーフ」を用いるなど、
その後の作曲家に大きな影響を及ぼしています。
ここでは、そんな彼の作品の特徴や魅力をザックリと紹介します。
ワーグナーの作品の特徴や魅力その1、「楽劇」への挑戦
ワーグナーは、音楽、詩、演劇、美術など、
あらゆる芸術を融合させた総合芸術作品「楽劇」の創始者でした。
従来のオペラが台詞と歌唱が分かれていたのに対し、
ワーグナーは言葉と音楽を一体化させることで、
より深い芸術体験を目指しています。
また言葉を旋律に乗せることで、
等身大の人間の感情を豊かに表現できるようにしたのもワーグナーの特徴です。
楽曲構成においても、個々のアリアではなく、全体を貫く一続きのモチーフを用いることで、ドラマの統一性を高めることにも成功しています。
「楽劇」では様々な芸術要素が有機的に融合されており、
ワーグナー作品の強烈な魅力といえるでしょう。
その2、民族的・神話的題材の採用
ワーグナーは、ドイツの民族的伝承や北欧神話などを題材に取り入れました。
これにより、作品に民族的・国民的なアイデンティティーを持たせると共に、普遍的な人間の姿を描き出すことに成功しています。
例えば「ニーベルングの指環」では、神話的な壮大なスケールの物語を通し、権力への執着や愛の問題など、人間の本質的な欲望や矛盾が力強く表現されています。
民族性と普遍性の融合がワーグナー作品の大きな特徴です。
その3、革新的な音楽手法
ワーグナーは既存の音楽の常識に挑戦し、数多くの革新的な手法を編み出しました。
代表的なものが、調性の概念を壊し、音程関係を無限に拡張した「無調音楽」の手法です。
また「無限旋律」と呼ばれる、一貫したモチーフを前奏曲から最後まで用いる組曲式の作曲法などもワーグナーの功績です。
このように、ワーグナーは自由な音楽思考によって、
従来の音楽の枠組みを打ち破り、近代音楽への道を切り拓きました。
このような前衛的な音楽は当時革命的な衝撃を与え、
後の作曲家に多大な影響を与えています。
シェーンベルクやベルクウェーベルンなどが代表です。
その4、ライトモチーフの活用
ライトモチーフとは、特定の人物、事物、思想などを象徴する短い旋律的モチーフのことを指します。これらのモチーフが作品全体を通して繰り返し用いられ、物語の展開に合わせて変形・発展して印象効果を高めるわけですね。
例えば「ニーベルングの指環」では、剣のモチーフ、ライン河のモチーフ、呪いのモチーフなど多数のライトモチーフが登場します。
これらはを用いることで、登場人物の性格や重要なアイテム、
中心となる概念などを連想させることができるようになります。
またライトモチーフは、言葉で象徴するだけでなく、
音楽的な手段でもドラマの筋書きを描写することを可能にしました。
アニメなどで、あるテーマが流れると「キャラクターが自然に連想される」という経験ありませんか?それがライトモチーフと覚えておいてください。
ワーグナーの代表曲まとめ
今回はワーグナーのおすすめ代表曲を紹介しました。
ロマン派最大の作曲家だけあって、
内容も長くなりすぎてしまいました・・・。
でも、ここまでお読みいただきありがとうございます。
ワーグナー・シリーズは次回の「ニーベルングの指環」の解説でラストです。
次回も長くなりそうな予感が・・・。