この記事では、作曲家ホアキン・ロドリーゴについて、ざっくりと解説しています。
哀愁を帯びたイングリッシュ・ホルンの旋律に導かれ、ギターがむせび泣くように、しかし気高く歌い出す…。クラシック音楽に詳しくなくても、この『アランフェス協奏曲』の第2楽章をどこかで聴いたことがある方は多いでしょう。
ホント、何度聴いても鳥肌が立つくらい素晴らしいです。
まぁ、筆者の感想はさておき・・・。
そんな美しい曲を生み出したのが、スペインの国民的作曲家ホアキン・ロドリーゴです。彼は3歳で光を失いながらも、その心に映るスペインの美しい風景を、生涯をかけて音楽に刻み続けた不屈の芸術家でした。
この記事では、盲目の天才ロドリーゴの生涯、彼を支え続けた愛の物語、そして記事の後半ではギターの魅力を最大限に引き出した代表曲を分かりやすくご紹介します。
筆者は3歳からピアノを開始。かれこれ30年以上ピアノに触れています。音大には行っておらず、なぜか哲学で修士号というナゾの人生です。
>>画像出典:アマゾン:ロドリーゴ:アランフェス協奏曲/カステルヌオーヴォ=テデスコ:ギター協奏曲 ほか
ホアキン・ロドリーゴとは?スペインの魂を奏でた盲目の作曲家
まずは、ロドリーゴがどのような人物だったのか、そのプロフィールを紹介します。
項目 | 内容 |
フルネーム | ホアキン・ロドリーゴ・ビドレ |
生没年 | 1901年 – 1999年 |
出身 | スペイン・バレンシア地方 |
特徴 | 3歳で失明した盲目の作曲家 |
功績 | 『アランフェス協奏曲』でギターの地位を向上させた |
代表作 | アランフェス協奏曲、ある貴紳のための幻想曲 |
なぜ「ギター協奏曲の代名詞」なのか?
20世紀に入るまで、ギターはオーケストラと共演するには音量が小さすぎると考えられ、協奏曲の独奏楽器として扱われることは稀でした。ロドリーゴの『アランフェス協奏曲』は、ギターとオーケストラが対等に渡り合い、互いの魅力を引き出し合う見事な書法によって、その常識を覆しました。この曲の世界的な大成功により、ギターはクラシック音楽における主要な独奏楽器の一つとしての地位を確立しています。
個人的には、「アランフェス」の2楽章を聴くと、チック・コリアの名曲「スペイン」を思いだします。
ロドリーゴの生涯と人物像

どんな人生を歩んだのか、もう少し深ぼって見てみましょう。大きな逆境にも負けない、不屈の精神に、脱帽するばかりです。
幼少期と音楽との出会い(1901〜1927年)
ホアキン・ロドリーゴは1901年、スペイン・バレンシア地方の裕福な家庭に生まれました。しかし、あろうことか、3歳でジフテリアにかかり、視力を完全に失います。この出来事は彼の人生を大きく変えるものでしたが、音の世界との特別なつながりを育むきっかけにもなりました。
少年期よりピアノや作曲の教育を受け、盲目の障害をものともせずにその才能を発揮。1920年代には地元の音楽院で学び、スペイン古典音楽への関心を深めながら、自作を発表するようになります。1927年には奨学金を得てフランス・パリへと留学。名門エコール・ノルマル音楽院でポール・デュカスに師事し、作曲技法と国際的な音楽感覚を磨きました。
パートナーとの出会いと創作活動(1930〜1960年)
1933年、パリでピアニストのヴィクトリア・カムヒと結婚。彼女の存在は、ロドリーゴの作曲活動において極めて重要なものでした。ロドリーゴは点字で音楽をスケッチし、それをヴィクトリアが五線譜に清書するというスタイルで、二人三脚の創作を長年続けました。
1939年に発表された『アランフェス協奏曲』は、内戦直後のスペインに希望の光をもたらしたとされる名作。ギターとオーケストラの新たな可能性を示し、国内外で絶賛されました。その後もギター協奏曲や声楽曲を中心に精力的に創作し、「スペインの魂を音楽で描く作曲家」として広く知られるようになります。
1947年からは、マドリード総合大学で音楽史の教授も担当しました。
ジャズのマイルス・デイビスがアルバム「スケッチ・オブ・スペイン」で取り上げています。
晩年と国民的作曲家としての地位(1960〜1999年)
晩年も創作活動を継続しながら、スペイン国内外で数々の賞を受賞。スペイン王室から「マルケス(侯爵)」の称号を授与されたほか、名誉博士号や勲章も多数受け、名実ともに国民的作曲家としての地位を確立しました。
その他、1998年には、フランスの芸術文化勲章も授与されています。
翌年の1999年に98歳で死去。ロドリーゴはスペイン文化の象徴的存在として、国民から愛され続けました。彼の音楽は、古き良きスペインへの憧れと愛情に満ち、ギター音楽の分野において今も世界中で演奏され続けています。
光を失い、音を紡いだ人生。ロドリーゴの感動エピソード5選
ここまで、ロドリーゴの生涯について紹介してきました。次に、彼のエピソードや豆知識を紹介します。本人の努力はもちろん、周囲にも愛される人物だったようです。
ロドリーゴのエピソード①:3歳での失明と、音楽との出会い
ロドリーゴは3歳の時に、当時流行していたジフテリアに罹り、一命は取り留めたものの、完全に視力を失いました。両親は、そんな彼に音の世界の楽しみを知ってほしいと、ピアノやヴァイオリンを習わせます。光を失ったことで、彼の聴覚は鋭敏に研ぎ澄まされ、音楽は彼にとって生きる希望そのものとなっていきました。
ロドリーゴのエピソード②:妻ビクトリアの献身
盲目であるロドリーゴが、どのようにして複雑なオーケストラの楽譜を書いていたのでしょうか。彼は、点字で作曲のスケッチを作り、それをピアニストであった妻のビクトリアが一つ一つ読み解き、五線譜に書き起こすという共同作業で、数々の名曲を生み出しました。まさに「二人で一人の作曲家」。妻ビクトリアの献身的な愛なくして、彼の音楽は生まれなかった言えるでしょう。
ロドリーゴのエピソード③:『アランフェス協奏曲』第2楽章に隠された悲しみ
この有名なアダージョは、ロドリーゴ夫妻が新婚旅行で訪れた、マドリード郊外のアランフェス宮殿の美しい庭園の思い出が基になっています。しかし、作曲された当時、夫妻は第一子を流産するという深い悲しみを経験していました。この曲に込められた慟哭のような旋律は、失われた命への祈りであり、神への問いかけであったとも言われています。
アランフェス宮殿は、スペインの首都マドリードから南に60キロほどのところにあります。
アランフェス宮殿:出典:Wikipedia
ロドリーゴのエピソード④:実はギターが弾けなかった!?
これほどまでにギターの魅力を知り尽くした音楽を書いたロドリーゴですが、彼自身はピアニストであり、ギターを専門的に演奏することはできませんでした。彼は、ギターの名手たちと親しく交流し、その特性を徹底的に研究することで、頭の中で完璧なギター音楽を構築していったと言われています。ちょっとびっくりエピソードですが、あらゆる楽器を弾ける作曲家なんていませんしね。
ロドリーゴのエピソード:⑤スペインの古き良き時代への憧憬
ロドリーゴの音楽は、常にスペインの歴史や文化と強く結びついています。それは、彼が実際に見ていた現代のスペインではなく、心の中で理想として思い描いていた、かつての輝かしい宮廷文化や、地方に伝わる素朴な民謡、情熱的な舞曲など、古き良き時代のスペインでした。彼は心眼を通して、誰よりも美しいスペインの情景を見ていたのです。
ほかにスペインの作曲家といえば、ファリャが有名ですね。あわせてお読みいただくと、よりスペイン音楽の楽しさが伝わると思います。
【初心者向け】ギターとスペインの魅力溢れるロドリーゴの代表曲3選
最後に、筆者の独断と偏見により選んだ、おすすめ作品を紹介して、終わりにしますね。
ギターという楽器の多彩な表情に、きっと驚かされるはずです。
ロドリーゴの代表曲①:アランフェス協奏曲
ギター協奏曲の金字塔であり、20世紀を代表する協奏曲の一つ。第1楽章の快活なリズム、第3楽章の優雅な宮廷舞曲、そして何よりも有名な第2楽章アダージョの、胸を締め付けるような哀愁と情熱。ギターとオーケストラが織りなす、完璧な美しさに満ちた奇跡の作品です。
出典:YouTube
代表曲②:ある貴紳のための幻想曲
17世紀バロック時代のスペインのギター奏者・作曲家ガスパル・サンスが残した舞曲を主題にした、ギターとオーケストラのための作品。「ある貴紳」とはサンスのことを指しています。古風で典雅な舞曲が、ロドリーゴの色彩豊かなオーケストレーションによって、現代に鮮やかに蘇ります。
ちょっとずつ盛り上がっていく感じが良いです!
出典:YouTube
ロドリーゴの代表曲③:マドリガル協奏曲
2本のギターとオーケストラのための、変化に富んだ協奏曲です。「マドリガル」とはルネサンス時代の恋愛歌のことで、曲は古いスペインの恋愛歌の旋律を基にした、10の短い楽章から構成されています。2本のギターが寄り添うように歌ったり、華麗なテクニックを競い合ったりと、より多彩で豪華なギターの魅力を楽しむことができます。
出典:YouTube
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ロドリーゴの生涯解説:まとめ
今回は、盲目という困難を乗り越え、スペインの魂とギターの魅力を音楽に結晶させた作曲家ロドリーゴをご紹介しました。彼の音楽は、聴く者の心にスペインの情景を鮮やかに映し出します。
この記事のポイント
- ロドリーゴは、3歳で視力を失った盲目の作曲家。
- 『アランフェス協奏曲』は、ギター協奏曲の金字塔として世界中で愛されている。
- 妻ビクトリアが点字の楽譜を書き写すという、夫婦の共同作業で作曲活動を行った。
- 彼の音楽は、失われた古き良きスペインの情景への憧れに満ちている。
まずは誰もが知る『アランフェス協奏曲』第2楽章から。目を閉じて聴けば、きっと心の中にロドリーゴが見ていた美しいスペインの風景が広がることでしょう。