この記事ではチェコ音楽の祖、スメタナの代表曲について紹介します!
『わが祖国』「モルダウ」は誰でも1度は聴いたことのある作品だと思いますが、じつはスメタナはクラシック界随一のメロディーメーカー。
「モルダウ」以外にも、優れた名曲を数多く作曲しています。
チェコの国民音楽の礎を築き、のちのドヴォルザークにも多大な影響を与えた、スメタナの作品にはどのようなものがあるのでしょうか。
そこで今回は、スメタナの代表曲6選と作品の特徴や最高傑作も併せて解説します。
いつもながらのざっくり解説なので、ぜひ気軽にご一読くだされば幸いです。
ちなみに、スメタナの生涯やエピソードはこちらの記事に紹介しています。
併せてお読みいただくと、より理解や関心が深まるハズです。
ということで、サクサクと見ていきましょう!
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スメタナの代表曲6選
ベドルジハ・スメタナは、1824年3月2日、現在のチェコ共和国のリトミシュルに生まれました。幼い頃から天才的な楽才を発揮し、チェコ、スウェーデン、ドイツなど、ヨーロッパ各地で大きな成功を収めています。
伝統的なクラシック重んじるかたわら、スメタナが生み出した音楽は、のちの国民学派の作曲家たちに絶大な影響を及ぼしました。
スメタナの代表曲その①、弦楽四重奏第1番
1曲目から円熟期の作品を紹介します。
本作は、1876年10月から12月に作曲された弦楽四重奏曲です。
お聴きいただいてわかる通り、冒頭のダイナミズムが強烈に迫ってくる1曲です。
1876年というと、すでにスメタナは聴力をほぼ失っており、
隠棲生活をし始めた時期でもあります。
病魔により衰えゆく肉体に抗うかのような、激しい内面の躍動が本作の最大の魅力といえるでしょう。
本作はスメタナの自伝的な内容を含んでおり、
それを象徴するかのように「わが生涯より」という副題が付けられています。
作曲当初、第3楽章があまりにも難しすぎるため、初演の担い手が見つからなかったという伝説も残されています。
しかし1879年に初演が行われ、その際ヴィオラを担当したのはアントニン・ドヴォルザークでした。
また、かねてから交流のあったフランツ・リストも本作を絶賛したと伝えられています。
全4楽章構成で、演奏時間はおよそ30分です。
スメタナの代表曲その②、オペラ「ボヘミアのブランデンブルク人」
2曲目はオペラから。
本作はスメタナが作曲したチェコの歴史を題材にしたオペラです。
スウェーデンにわたり、新天地にて名声を獲得したスメタナですが、
その一方で祖国への愛はますます強まるばかりでした。
そしてスウェーデンからの帰国後、1862年から1863年にかけて本作を書き上げ、
1866年の初演では大きな成功を収めたと言います。
現在では上演機会は少ないものの、スメタナの総合芸術の原点とも記念碑的作品です。
オペラは全3幕構成で、演奏時間はおよそ2時間30分程度となっています。
スメタナの代表曲その③、ピアノ三重奏曲
3曲目は室内楽です。
音楽教師として、作曲家として順調に歩んでいたスメタナ。
しかし、1850年代の彼はまさに不幸が連続した時代でした。
最愛の娘たちを次々と流行病により失い、人生の絶望を味わいます。
とくに、音楽的才能に恵まれていた長女ベドジーシカを4歳で失った際のスメタナは、
全てを失ったかのような絶望を味わったと言います。
本作はそのような状況にありながらも、
ベドジーシカとの短くも美しい思い出を偲ぶために作曲された作品であり、
同時に、スメタナ自身が悲しみを乗り越えるための生み出した作品とも言えるでしょう。
1855年に初演され、現在ではスメタナをもっとも代表する室内楽曲として広く親しまれています。
スメタナの代表曲その④、弦楽四重奏曲第2番
スメタナ最晩年の室内楽の傑作です。
上述の『弦楽四重奏第1番』から、およそ7年後の1883年に完成され、
第1番と同様に「わが生涯より」の副題が付けられています。
しかしこれはスメタナ本人によるものではなく、周囲によるものだそうです。
この時期のスメタナは、両耳の失聴と梅毒の進行により心身ともに重篤な状況でしたが、最後の気力を振り絞り本作を完成させました。
音楽的に自由な形式でありながら、スメタナの内面的深遠さが遺憾なく発揮されている名曲です。本作における表現主義的要素は、のちの新ウィーン楽派の旗手シェーンベルクに多大な影響を与えたと言われています。
演奏時間は約20分です。
スメタナの代表曲その⑤、オペラ「売られた花嫁」
本作は、スメタナを代表するオペラ作品であるばかりでなく、
チェコ共和国の国民的な作品でもあります。
1863年から1866年の3年間にわたり作曲が行われ、完成同年の5月に初演が行われました。
発表当時、爆発的な人気を獲得した本作は、
1882年までのおよそ16年間で100回もの上演が行われ、
チェコのオペラ史上空前の大ヒットとなりました。
現在でもたびたびオペラ上演が行われていますが、
とくに今回紹介する「序曲」が有名です。
民族音楽を積極的に取り入れたスメタナですが、
本作はクラシック音楽におけるロマン主義と民族音楽とが絶妙に交差した、
音楽史上に残る傑作オペラと言えるでしょう。
全3幕構成で、演奏時間はおよそ2時間です。
スメタナの代表曲その⑥、オペラ「悪魔の壁」
全3幕からなるスメタナ最後のオペラ作品です。
作品の題材は、切り立った岩壁にまつわるチェコに伝わる伝説をもとにしています。
伝説によれば、この岩壁を見下ろす悪魔が、ヴルタヴァ川の水位を上昇させ、修道院の建設を中断させたのだとか。
本作は1882年に作曲が完成し、同年10月に初演を迎えています。
スメタナの最後のオペラとあってさぞかし好評だったかと思いきや・・・。
登場人物の複雑さやステージングの関係で、初演は芳しくない結果に終わったと伝えられています。
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スメタナの最高傑作、交響詩「わが祖国」(モルダウ)の解説
ここまでスメタナの代表曲について紹介してきました。
多くの読者の方にとって、初めて聴く作品ばかりだったのではとないかと思います。
では「スメタナの最高傑作は?」と聞かれると、
難しい問題ですが、やはりここは交響詩『わが祖国』ではないでしょうか。
実績的にはオペラ「売られた花嫁」ももちろんですが、
認知度から考えると『わが祖国』かなと・・・。
ということで、簡単解説の続きです。
交響詩「わが祖国」について
スメタナをもっとも代表する交響詩「わが祖国」。
多くの方が「モルダウ」という曲名で1度は聴いたことがあることでしょう。
しかし実はこの曲「モルダウ」だけではないんです。
本作は「モルダウ」を含めて、6つの交響詩からなる連作作品として作曲されました。
1874年から第1作の作曲が開始され、1879年に第6作までのすべてが完成。
私たちがよく知る「モルダウ」とは、その中の2番目の作品にあたります。
初演時期も作品ごとに異なり、全6作すべて通しの初演は1882年、
スメタナがこの世を去る2年ほど前にプラハ国民劇場側のジョフィーン島にある会場で行われました。
各曲それぞれ15分弱程度の比較的短い作品ですが、
全曲通しの場合は、約75分という中規模な作品となります。
また現在毎年行われているプラハの春音楽祭オープニングでは、
「モルダウ」の演奏が恒例となっています。
交響詩「わが祖国」、第1曲「ヴィシェフラド」
1874年の9月から11月にかけて作曲された交響詩「わが祖国」の第1曲目です。
スメタナは両耳とも失聴しましたが、本作作曲中は、まだ辛うじて聴力が残っていたと言われています。
ヴィシェフラドとは「高い城」を意味し、かつてボヘミア国王が住んでいたお城がモチーフになっているそうです。
演奏時間は15分程度。
第2曲「モルダウ」(ヴルタヴァ)
日本人に馴染み深い作品が、本作「モルダウ」です。
しかし「ヴルタヴァ」とも表記されることもあり、作中ではヴルタヴァ川の流れる様子が描かれています。
ちなみにヴルタヴァ川の景色はこちらです。
引用:wikipedia ヴルタヴァ川
さらに本作では、16世紀に活躍したイタリアのテノール歌手ジュゼッペ・チェンチ作「ラ・マンドヴァーナ」のメロディが転用されているとのことです。
聴いていると故郷を思い起こす気持ちが湧いてくるのは、
川の流れの雄大さによるのかもしれません。
第3曲「シャールカ」
第3曲が「シャールカ」です。
1875年2月に作品が完成し、1876年12月あるいは1877年3月に初演が行われたと伝えられています。
「シャールカ」とはチェコ共和国プラハの北東にある「谷の名前」とのこと。
チェコの伝説にある『乙女戦争』に登場する女性戦士の名前に由来するそうです。
第4曲「ボヘミアの森と草原から」
こちらも第3曲「シャールカ」と同じく1875年に作曲が完成し、
「シャールカ」よりも早い、同年12月に初演が行われました。
具体的なモチーフや題材はないそうで、
タイトルの通り、ボヘミアの森や草原からインスピレーションを受けて作曲されたとのことです。
薄暗い印象の冒頭から、徐々に陽の光が照らし出されている様子が見事に表現されています。
第5曲「ターボル」、第6曲「ブラニーク」
第5曲が「ターボル」です。本作と第6曲「ブラニーク」は、
ともに15世紀に起きたキリスト教における戦争(「フス戦争」)をモチーフにしているそうです。
「ターボル」は1878年、その後「ブラニーク」が1879年に作曲が完成しており、
1880年1月4日に共に初演を迎えました。
「ブラニーク」とは中央ボヘミアにある山の名だそうで、
同地にはフス戦争で命を落とした戦士たちが眠っているそうですよ。
勇ましいフィナーレが一連の物語の終わりを華やかに飾ります。
引用:wikipedia ブラニーク山
スメタナの作品の特徴や魅力について
ロマン主義的であるとともに民族音楽的。
スメタナの作品には、どこか懐かしさを感じさせる哀愁が漂っています。
そんな彼の作品の特徴や魅力はどのようなところにあるのでしょうか。
今回はざっくりと3つに分けて紹介します。
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スメタナの作品の特徴や魅力その①「チェコの魂を奏でる民族主義的な音楽」
スメタナの音楽には、チェコの民族主義的な要素が色濃く反映されているのが特徴。
上述の交響詩『我が祖国』は、チェコの自然景観や歴史的エピソードを描写し、チェコ人の誇りと愛国心を強く訴えかけます。
とくに「モルダウ」は、ヴルタヴァ川の流れを音楽で表現し、その美しさと壮大さを称えています。
そのため、スメタナの音楽を聴くことで、チェコの文化や風景を体感できるのではないでしょうか。ある意味チェコの自然と風土が、スメタナの感性を育てたと言っても過言ではないかもしれません。
ちなみに、スメタナは「チェコ国民楽派の祖」と称されています。
国民楽派とは、自国の民族(民俗)音楽や民謡・民話を作品に取り入れて表現した作曲家たちのこと(超ざっくりです)。
作品の特徴や魅力その②「音楽で描く物語:ドラマティックなオペラ」
スメタナのオペラ作品は、そのドラマティックなストーリーテリングで知られています。代表作『売られた花嫁』は、コミカルな要素を持ちつつも、人間関係や感情の機微を巧みに描いています。
このオペラは、チェコの田舎の生活や伝統を背景に、愛と誠実さが勝利する感動の物語。
スメタナのオペラは、その豊かなキャラクター描写と感情の表現力も魅力です。
総合芸術という点においては、オペラ「売られた花嫁」がスメタナをもっとも代表する作品かもしれません・・・。
しかし、認知度という観点から、今回は「わが祖国」に焦点をあてました。
作品の特徴や魅力その③「個人的な響き:スメタナの内面が顕著に映し出された室内楽」
スメタナの弦楽四重奏曲第1番『わが生涯より』は、彼の人生経験を反映した非常に個人的な作品です。
この曲は、スメタナの喜びや悲しみ、成功と挫折といった感情を音楽で表現しており、とりわけ、耳の病気による苦しみとの葛藤が感じられます。
スメタナの室内楽作品は、彼の内面の世界を深く掘り下げ、聴く者に彼の人生とその背景を理解させる力があり、こうした内面的な表現が、彼の音楽の魅力の一つです。
この記事では、室内楽・管弦楽・オペラ作品を紹介しました。
しかしこれら以外にも、ピアノ曲や合唱曲、声楽曲など幅広いジャンルの作品を残しているのもスメタナの特徴と言えるでしょう。
また、アントニン・ドヴォルザークはスメタナから直接教えを受けたことも併せて覚えておくと、知識の幅が広がります。
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スメタナの代表曲まとめ
長くなりましたが、スメタナの代表曲や作品の特徴について紹介しました。
「モルダウ」の認知度が圧倒的すぎて他の作品が埋もれてしまうことが多いですが、
スメタナの作品には「心に沁みる」ものがまだまだあります。
この記事にを読まれた方は、ぜひこの機会により深いスメタナの作品に触れてみてはいかがでしょうか。
楽器を習いたい方、再開したい方はこちらの記事を参考にしてみてください!👇