この記事では、サミュエル・バーバーの『弦楽のためのアダージョ』について紹介します。
クラシック作品としては、かなり有名な作品ですが、
正直に言って、この記事に辿り着く人は、かなりのクラシック音楽通な方かもしれません。
作曲者サミュエル・バーバーは、アメリカ人として初めてヨーロッパでも受け入れられ、
今日では、その深淵な作風かた世界的作曲家として認知されています。
今回紹介する『弦楽のためのアダージョ』は、おもに葬儀や葬送、鎮魂の際の定番として用いらていますが、バーバー本来の意図とは全く異なるとのこと。
ということで、いつもながら今回も全体的にざっくり解説していきたいと思います。
バーバーの代表曲のおすすめも紹介しますので、
これまでご存じなかった方にとって、大いに参考になれば幸いです。
ちなみに、バーバーの生涯についてはコチラからご一読ください。
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バーバーの『弦楽のためのアダージョ』の解説
サミュエル・バーバーの作品といえば『弦楽のためのアダージョ』。
現在でもさまざまなコンサートのレパートリーとして演奏され、
多くの聴衆に感動を与える名曲です。
まだ聴いたことがない方も、一度聴けばきっと忘れられない作品になる思いますので、
これを機会に、ぜひ覚えておいてください!
『弦楽のためのアダージョ』の作曲の経緯
本作が生まれたきっかけは、1935年から1936年、バーバーがローマ賞受賞によりイタリア・ローマに留学していたときのこと。
そのときバーバーは、本作の原作となる『弦楽四重奏ロ短調』を作曲していました。
その後、弦楽四重奏の第2楽章を弦楽合奏用に編曲したものが、
現在知られる『弦楽のためのアダージョ』です。
ちなみに、もとの弦楽四重奏版はこんな感じです👇
弦楽四重奏版をより深く、大きく広めたという印象がありますね。
元の作品は3楽章で構成されています。
そして弦楽合奏版が大きな成功を収めると、
作曲者の名前をとって『バーバーのアダージョ』と称されるようになります。
アダージョとは、音楽指示の1つで、
一般的には「ゆるやかに」を意味します。
本作の演奏時間は10分程度です。
また、のちにバーバーは『アニュス・デイ(神の子)』のタイトルで、
本作を無伴奏合唱曲にも編曲しています。こちらも本当に素晴らしいのでぜひ!!
トスカニーニによる初演
弦楽合奏版に編曲後、この作品に興味を持ったのが、
イタリアの大指揮者アルトゥール・トスカニーニでした。
第2次世界大戦当時、イタリアを逃れてアメリカに渡ったトスカニーニは、
同地においてクラシック音楽の普及に意欲的に取り組み、
NBC交響楽団の首席指揮者を務めていました。
そして作曲から2年後の1938年11月5日、
トスカニーニ指揮、NBC交響楽団の演奏でついに初演を迎えます。
しかし、当時のトスカニーニは同時代の作曲家、
とりわけアメリカ人作曲家の作品には興味を示さなかったため、
バーバーの作品を初演するのは、とても珍しいことでもありました。
初演を終えたトスカニーニは、本作を大いに気に入り、
バーバーに新作を依頼することになります。
『弦楽のためのアダージョ』は葬送のための曲じゃない!
と、バーバーは不満を漏らしていたのだとか。
というのも、この作品が世に知られるようになったのは、
銃弾に倒れたジョン・F・ケネディの葬儀で使用されてからのこと。
これ以降、本作は葬儀や鎮魂のための慰霊祭で多く用いられるようになり、
『弦楽のためのアダージョ』=死者への追悼というイメージがついてしまいます。
しかし、もちろん当のバーバーは作曲当初からそんな意図はなく、
上記のような感想を漏らしていたそうです。
ちなみに、日本においても昭和天皇が制御された際や、
東日本大震災からの復興コンサートでも演奏されました。
その他、しばしばドラマや映画でも使われていて、
・デヴィッド・リンチ監督の『エレファント・マン』
・オリバー・ストーン監督の『プラトーン』
・フランス映画の傑作『アメリ』
日本のドラマでは、
・のだめカンタービレ
・謎解きはディナーのあとで
などでも登場します。
バーバーの代表曲すすめ6選
ということで、
ここまで『弦楽のためのアダージョ』について簡単に紹介してきました。
でも、バーバーの作品はそれだけではありません。
他にも優れた作品を多く残しているので、
以下では、代表曲のおすすめを6曲紹介したいと思います。
こちらの作品も併せてお聴きいただくと、
よりバーバー作品を楽しめますよ!
バーバーの代表曲その①、交響曲第1番
1935年に作曲が開始され、1936年に完成されたバーバー初期の傑作です。
完成同年に世界初演が行われ、1937年にアメリカ初演が演奏されました。
本作は、指揮者ロジンスキーの意向によりザルツブルク音楽際において演奏され、
アメリカ人作曲家として、初のザルツブルク音楽祭登場という快挙を成し遂げています。
本作では、バーバーのロマン派的ダイナミックさと、緻密な抒情性が存分に発揮されているほか、計算された管弦楽法が魅力です。
何度かの改訂ののち、現在の版へと完成されました。
演奏時間は25分程度です。
バーバーの代表曲その②、交響曲第2番
次も交響曲です。
本作は1943年、「パイロットを扱った交響作品」の依頼を受けて作曲されました。
英語では「Flight Symphony」のタイトルでも知られています。
1944年に指揮者セルゲイ・クーセヴィッツキーにより初演され、
バーバー本人も作品の完成度に満足していたと言われています。
冒頭から激しいオーケストレーションが魅力の交響曲です。
バーバー作品の中でも、とくに「現代的」と称され、
不協和音などの技法がふんだんに使用されています。
全3楽章構成で、演奏時間は約30分です。
アメリカ陸軍に徴兵されていた時に得た、バーバーの体験もきっと含まれていることでしょう。
バーバーの代表曲その③、ヴァイオリン協奏曲
バーバーは生涯で3曲の協奏曲を作曲しました。
本作は、その第1作目にあたる作品です。
1939年、資本家サミュエル・フェルズという人物の養子ブリゼッリのために書かれた作品。
バーバーは前払いされたお金を手にスイスにわたり、同地にて完成させました。
第1・2楽章の完成度に満足したブリゼッリでしたが、
1年後に遅れて完成された第3楽章は「難しすぎて弾けない」と難色を示したのだとか。
そのため、第3楽章をカットするようバーバーに伝えたそうですが、
これをバーバーは拒否。
怒ったフェルズは「前払金を返すよう」命じましたが、
その時には、すでに全額使い果たしていたという逸話が残っています。
全3楽章構成で、演奏時間は25分程度です。
バーバーの代表曲その④、ピアノ協奏曲
協奏曲からもう1曲。
こちらはバーバー最後の(つまり3曲目の)協奏曲です。
楽譜出版社シャーマーから、創立100周年を記念して委嘱されました。
お聴きいただいてわかるように、
不協和音が多用された、かなり現代音楽的な作品です。
また、演奏には通常以上の超絶技巧が求められます。
1960年3月に作曲が開始され、最初の2楽章は順調に完成したものの、
第3楽章に苦戦し、ようやく完成したのは初演15日前だったそうです。
第3楽章があまりにも難しかったため、
あの天才ピアニストウラジーミル・ホロヴィッツでさえ、テンポ通りには演奏できなかったと言われています。
そのため、頑固なバーバーもさすがにフィナーレを改訂したそうです。
バーバーの代表曲その⑤、キルケゴールの祈り
5曲目はちょっと趣向を変えて、カンタータから1曲。
カンタータとは、楽器の伴奏がついた声楽曲のことです。
本作は、合唱と大規模なオーケストラが魅力。なんといってもドラマティックです。
迫力満点ながら、宗教曲らしい荘厳さも備えています。
また、タイトルのキルケゴールとは、
デンマークの哲学者セーレン・キルケゴールのことです。
『死に至る病』なんて本が有名です。
本作は全4部構成で、グレゴリオ聖歌の形式が採用されています。
演奏時間は20分程度です。
バーバーの代表曲その⑥、管弦楽のためのエッセイ(1・2・3)
最後は管弦楽です。
本作は、1938年から1978年の40年間にかけて、同タイトルで3作発表されました。
第1作目は(動画の作品)は、上述した指揮者アルトゥール・トスカニーニの依頼により作曲され、続いて1942年に第2番が完成しました。
ちなみに、第2番を委嘱したのは、これまた大指揮者ブルーノ・ワルターです。
そして第3番は1978年に完成された、バーバーの最後の作品でもあります。
そのため、第2番から35年の時を経て完成された第3番は、
まさにバーバー作品の集大成とも言えるでしょう。
第2番と第3番の作風の違いや変化に注意しながら聴くのも、面白いのではないでしょうか。
こちらが第2番👇
そしてこちらが第3番👇(演奏・録音は多くないようです)
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『弦楽のためのアダージョ』解説まとめ
今回はサミュエル・バーバーの最高傑作『弦楽のためのアダージョ』と、
代表曲を6曲紹介しました。
『弦楽のためのアダージョ』以外、全部初めて聴かれた方が大多数だと思います。
でも、他の曲をしってみるのも、クラシック音楽の楽しさの1つかなと。
なので、この記事を機会にぜひ、バーバーの他の作品にも触れていただければ幸いです。