フォーレの「ドリー組曲」、その愛らしいメロディは、聴いているだけで幸せな気持ちにさせてくれますよね。ピアノの発表会やコンサートで、連弾の定番曲として圧倒的な人気を誇ります。
しかし、いざパートナーと楽譜を広げ、その美しい音符を前にすると、期待と共にちょっと不安がよぎるものです。
といった、連弾ならではの心配が湧いてきませんか?
そんな方のために!
この記事を読めば、練習の段階から本番のステージまで、この素晴らしい音楽をより一層楽しむことができるようになるはずです。記事の後半では、無料楽譜も紹介しています!
筆者は3歳からピアノを開始。いろいろあって、かれこれ30年以上ピアノに触れています。音大には行っておらず、なぜか哲学で修士号というナゾの人生です。
>>画像出典:アマゾン:フォーレ:舟歌、即興曲、無言歌、「ドリー」組曲 他
フォーレの愛情が詰まった「ドリー組曲」とは?
出典:YouTube
とその前に、まずはいつものようにちょっと寄り道を。サクッと作品解説しますね。フォーレの作品って、本当にどの作品も「美しい」です。
なかでも、この組曲がなぜこれほどまでに優しく、温かい愛に満ちているのか・・・。
その理由は、作曲の経緯にあると言われています。実は本作「ドリー組曲」はフォーレの他の作品とは違って、依頼や演奏会のために書かれたものではありませんでした。
「じゃあ、作曲のきっかけは?」
ってなると思います。
この曲は、フォーレが親しくしていた銀行家の妻、エンマ・バルダックの娘、エレーヌ(愛称:ドリー)の誕生日を祝うために、1曲ずつ書きためられていったという、非常にプライベートで心温まるエピソードから生まれた作品。
ちなみに、母エンマは後にドビュッシーと結婚し、ドビュッシーは娘のために「子供の領分」を作曲しました。二人の大作曲家が、同じ家庭の子供たちのために傑作を残したというのは、興味深い話ですね。
余談ですが、フォーレとエンマは恋仲だったという話もあり、エレーヌはドーレの実の娘だという説もあります。
楽曲構成(全6曲)
組曲は、ドリーの成長に寄り添うように、可愛らしいタイトルのついた6つの小品で構成されています。それぞれの曲が持つ世界観を少し覗いてみましょう。
- 第1曲:子守歌 (Berceuse) – ドリーの1歳の誕生日に。プリモが奏でる甘い旋律を、セコンドのアルペジオが優しく包み込む、揺りかごのような曲。
- 第2曲:ミ・ア・ウ (Mi-a-ou) – ドリーの弟が姉を「メシュー」と呼んでいた口癖がタイトルに。猫が戯れるように、二つのパートが軽快に追いかけっこをする愛らしい曲。
- 第3曲:ドリーの庭 (Le jardin de Dolly) – 穏やかで美しい、夢見るような雰囲気の曲。フォーレらしい洗練された和声が、陽光あふれる庭園の情景を描き出します。
- 第4曲:キティ・ヴァルス (Kitty-valse) – ドリーが飼っていた犬の名がつけられた、少しお洒落で気まぐれなワルツ。優雅さとコミカルさが同居する魅力的な一曲。
- 第5曲:優しさ (Tendresse) – フォーレらしい官能的で洗練されたハーモニーが光る、情感豊かな曲。内面の温かい感情を表現するような、内省的な美しさを持っています。
- 第6曲:スペインの踊り (Le pas espagnol) – 華やかで情熱的。組曲のフィナーレを飾る、躍動感あふれる舞曲。二人のエネルギーが一体となってクライマックスを築きます。
プリモとセコンド、二人の奏者が音を重ね、対話し、一つの音楽を創り上げる喜び。一人では決して表現できない豊かな響きと色彩感が、この「ドリー組曲」の最大の魅力と言えるでしょう。
ドリー組曲の難易度を1曲ずつ徹底解説(連弾)
それでは、難易度をパート別に解説します。プリモ(高音域担当)とセコンド(低音域担当)では求められる技術が少し異なるので、パートナーと話し合いながら、練習してみてください!
筆者の実体験として、難易度は中級〜中級上程度。全音ピアノピースだと「C」〜「D」難易度といったところでしょうか。パート別だとこんな感じです(あくまで個人の経験からですが)
プリモ(高音域)全体の難易度:
ソナチネ〜レベル。主に美しいメロディラインを表情豊かに歌う役割を担います。指のなめらかな動きや、繊細な音色のコントロールが求められます。
セコンド(低音域)全体の難易度:
ソナチネ前半レベル。音楽の土台となる伴奏やリズムを正確に刻む重要な役割です。プリモより広い音域の跳躍や、複雑な和音を押さえる場面も多く、安定した演奏技術が必要です。
そして何より、相手の音を聴き、フレーズの受け渡しを感じ、呼吸を合わせるという「アンサンブル能力」が求められます。技術的な難易度とは別に、ソロ演奏にはない難しさがある一方で、連弾の醍醐味でもあります。
では、1曲ずつ難易度を見ていきましょう。今回も、いつものように⭐️1〜5段階で難易度を表しています。
第1曲:子守歌 (Berceuse)
難易度:★★☆☆☆
- 技術的ポイント: [プリモ] 美しくなめらかなレガート奏法が全てです。決して力まず、優しく、慈しむようなタッチでメロディを歌います。[セコンド] 安定したテンポで、揺りかごが規則正しく揺れるような伴奏を刻むこと。響きを豊かにするペダリングも重要です。
- 合わせるコツ: 技術的な難所は少ない分、音楽性が問われます。プリモの優しい旋律を、セコンドが大きな愛でそっと包み込むように支えるイメージで演奏しましょう。お互いの息遣いを感じることが大切。
出典:YouTube
第2曲:ミ・ア・ウ (Mi-a-ou)
難易度:★★★☆☆
- 技術的ポイント: [プリモ] 軽快で粒のそろったスタッカートと、猫が駆け抜けるような素早い指の動きが求められます。[セコンド] プリモの遊び心あふれる動きに惑わされず、正確なリズムキープに徹することが重要です。
- 合わせるコツ: 猫が気まぐれに駆け回るような、二人の楽しい掛け合いが魅力。お互いのフレーズの受け渡しを、「はい、どうぞ!」「ありがとう!」と会話するように意識すると、生き生きとした演奏になります。
出典:YouTube
第3曲:ドリーの庭 (Le jardin de Dolly)
難易度:★★★☆☆
- 技術的ポイント: [プリモ] 息の長い、歌うようなフレーズ感が求められます。フレーズの頂点を意識し、自然な抑揚をつけましょう。[セコンド] 透明感のある和音の響きと、それを支える繊細なペダルワークが鍵。和音のバランス感覚が試されます。
- 合わせるコツ: 夢見るような穏やかな雰囲気を二人で共有することが何よりも大切。特にペダルは、響きが濁ってしまわないよう、プリモの旋律と和声の移り変わりをよく聴きながら、丁寧な踏み変えを心がけましょう。
出典:YouTube
第4曲:キティ・ヴァルス (Kitty-valse)
難易度:★★★★☆
- 技術的ポイント: [プリモ/セコンド] 軽やかでありながら芯のあるワルツのリズム感と、急な強弱の変化(pからfへ)への素早い対応。お互いに広い音域へ跳躍するパッセージが多く、ミスタッチに注意が必要です。
- 合わせるコツ: 楽譜上の「1・2・3」という拍を数えるだけでなく、体が自然に揺れるようなワルツのリズムを感じ、呼吸を合わせることが成功の鍵です。跳躍の着地点をお互いに確認しながら練習しましょう。
出典:YouTube
第5曲:優しさ (Tendresse)
難易度:★★★★☆
- 技術的ポイント: [プリモ/セコンド] 内声(和音の中間の音)に隠された美しい動きを、意識して美しく聴かせることが求められます。
- 合わせるコツ: この組曲で最もハーモニーが美しい曲。お互いのパートの役割(今どちらが主旋律で、どちらが対旋律か)を理解し、どの和音を一番美しく響かせたいのかを共有しながら練習すると、演奏にぐっと深みが出ますよ!
出典:YouTube
第6曲:スペインの踊り (Le pas espagnol)
難易度:★★★★★
- 技術的ポイント: [プリモ/セコンド] 華やかで技巧的なパッセージが次々と現れ、指の瞬発力と正確さが不可欠です。後半、熱狂的に盛り上がっていくクレッシェンドで、迫力と輝きを失わないだけのスタミナも求められます。
- 合わせるコツ: 情熱的なリズムとエネルギーを二人で共有し、フィナーレに向かって突き進む一体感が不可欠です。興奮してテンポが暴走しないよう、セコンドが音楽の土台をしっかりとリードし、プリモがその上で華麗に舞うイメージを持つと良いでしょう。
出典:YouTube
ちなみに、名ピアニストのアルフレッド・コルトーによるピアノソロ編曲版も存在しますが、こちらはプリモとセコンドの両パートを一人で弾きこなすため、プロのピアニストが演奏会で取り上げるレベルの難曲となっています。
「ドリー組曲」の連弾がもっと楽しくなる!演奏と練習のコツ3つ
ただ楽譜通りに弾くだけでなく、少しの工夫で連弾はもっと楽しく、もっと音楽的になります。
まずは二人で、お手本となるCDやYouTubeの演奏をいくつか聴いてみましょう。「この演奏の、この部分の雰囲気がいいね」「こんな風に弾きたいね」というゴールを共有することが、質の高い練習への第一歩です。
筆者は正直に言うと、あまり連弾の経験がありません(ごめんなさい)。
とはいえ、ゼロではないので、当時教わったポイントを3つ紹介しますね。
基本的なことですが、こんなことでした。
連弾練習の黄金律
まずは自分のパートを完璧に: 当たり前のことですが、一人でしっかり弾ける状態にしておくことが、パートナーへの最低限のマナーかなと。しっかりと練習した上で、自信を持って合わせましょう!
超ゆっくりから合わせる
焦りは禁物です。メトロノームに合わせて、自分たちが「遅すぎる」と感じるくらいのテンポから始めましょう。音だけでなく、体の動きや呼吸をシンクロさせる絶好の機会です。
相手の楽譜も見る
自分のパートだけでなく、相手が今どんなリズムで、どんな音域を弾いているのかを知ることで、音楽全体の流れが格段に分かりやすくなります。
相手のパートもできれば練習しておきましょう!(完璧じゃなくてOKです)
始まりの合図を決める
どちらかが呼吸で合図をする、セコンドが左手でそっと拍を示すなど、曲の始まりの「おまじない」を決めておくと、本番でも安心してスタートできますよ。
【無料楽譜あり】おすすめの楽譜・音源
最後に、楽譜紹介して終わりにします。これからチャレンジしたい方は、まずは無料楽譜で雰囲気を感じるのも良いと思います。
無料楽譜
「ドリー組曲」も、IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト)でパブリックドメインの連弾譜が無料でダウンロード可能です。まずは気軽に譜読みをしてみたい、という方には最適です。
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※ただし、海外の古い版が多いため、運指などが書かれていなかったり、印刷が不鮮明な場合があります。
定番の有料楽譜
日本では全音楽譜出版社から出ている楽譜が、運指やペダルの指示も丁寧に書き加えられており、学習者にとって最も使いやすく、間違いのない選択と言えるでしょう。
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フォーレ「ドリー組曲」の難易度解説:まとめ〜二人で紡ぐ、至福のハーモニー〜
今回は、フォーレの「ドリー組曲」について、連弾での難易度や練習のコツを、より詳しく解説しました。
この曲の本当の美しさは、パートナーと呼吸を合わせ、互いの音に耳を澄ませ、心を一つにしてハーモニーを紡ぎ出す瞬間にあります。技術的な難易度を超えた「音楽で対話する喜び」を、ぜひ心ゆくまで味わってみてください。
【この記事のポイント】
- 「ドリー組曲」は、フォーレのドリーへの愛情から生まれた心温まる連弾組曲。
- プリモはブルグミュラー程度、セコンドはソナチネ前半程度の技術が目安。
- 第1曲「子守歌」は最も穏やかで、音楽性を深めるのに最適。初心者ペアにもおすすめ。
- 第2曲、第4曲は、リズミカルな掛け合いが楽しく、聴き映えもする。
- 第5曲「優しさ」は、フォーレらしい美しいハーモニーをじっくりと堪能できる。
- 第6曲「スペインの踊り」は最も技巧的で華やかなフィナーレを飾る。
- 連弾成功の秘訣は、自分のパート練習に加え「相手を聴き、呼吸を合わせる」こと。
どの曲を弾いてみたいか、ぜひパートナーと話し合ってみてはいかがでしょうか?二人で奏でる時間は、きっと練習の過程も含めて、かけがえのない宝物になりますよ!