クラシック音楽史上、屈指の名作とされるドヴォルザークの『チェロ協奏曲』。
協奏曲にはピアノやヴァイオリンなど、さまざまな作品があります。
しかし、そんな膨大な作品の中でも、ドヴォルザークの『チェロ協奏曲』は、
もっとも愛されている協奏曲の1つといっても過言ではないでしょう。
ドヴォルザークのコンツェルト、通称「ドヴォコン」の愛称で親しまれている本作にはどのような魅力があるのでしょうか。
本記事では、ドヴォルザークの『チェロ協奏曲』について、
簡単にざっくりと解説します。
記事後半ではおすすめYoutube動画も添付してますので、
ぜひ最後まで読んでみてくださいね!
これまでのドヴォルザークシリーズをまだお読みでない方はこちらから。
画像出典:アマゾン、ベスト・オブ・グレート・コンポーザーズ ドヴォルザーク
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『チェロ協奏曲』の解説
ヴィオラ奏者として楽団を渡り歩いたのち、作曲家に転身したドヴォルザーク。
若い頃は経済的に苦労したものの、
ヨハネス・ブラームスとの出会いをきっかけに、
作曲家としての成功を歩み始めます。
『チェロ協奏曲』の作曲年代
新世界「アメリカ」に活動拠点を移したドヴォルザークは、
同地の民族音楽や祖国と異なる文化にインスピレーション受けつつ、
多くの傑作を残しています。
代表作『交響曲第9番「新世界より」』(1893)や、
『弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」』といった後期の代表作が作曲されたのも、
アメリカ時代のことでした。
そして本作、『チェロ協奏曲』もアメリカ時代の後半、1894年から1895年にかけて作曲されています。
1896年にイギリス・ロンドンにて行われた初演は、聴衆からの喝采で迎えらました。
それ以降、本作はドヴォルザークの代表作にして、協奏曲の中でも傑作と称され、
チェリストにとって欠かすことのできない作品となっています。
『チェロ協奏曲』の魅力は?
本作の特徴は、なんといっても親しみやすいメロディーにあります。
また、新世界アメリカから送る、ドヴォルザークの祖国チェコ(ボヘミヤ)への「望郷の思い」が込められた作品です。
チェコの民族音楽とアメリカで出会った黒人霊歌やインディアンの音楽が見事に融合した、国民楽派の新たな1ページを飾る名曲とも言えるでしょう。
ボヘミアの自然を彷彿とさせるような旋律が数多く登場し、第1楽章の冒頭の旋律や、第2楽章のゆったりとした旋律などは、まさにボヘミアの広大な草原や森をイメージさせます。
作品を聴いた友人ブラームスは、
「人の手がこのような協奏曲を書きうることに、なぜ気づかなかったのだろう。気づいていれば、とっくに自分が書いただろうに」と悔しさを滲ませたそうです。
かつて思いを寄せた女性のために
本作が作曲されたのは、ドヴォルザークが帰国間近の頃でした。
そんな中、ニューヨークで作曲中のドヴォルザークの元に、妻アンナの姉ヨセフィーナが重病であるとの知らせが届きます。
これを聴いたドヴォルザークは居ても立っても居られない状態だったそうです。
というのも、ヨセフィーナはかつてのドヴォルザークが思いを寄せた女性。
今すぐにでも駆けつけたい気持ちを抑えながら、
本作の作曲に取り組みます。
そしてドヴォルザークは、ヨセフィーヌがかつて好きだった自作の歌曲「1人にして」を作品に織り交ぜ、彼女を慰めようとします。
その後、1895年4月にチェコへ帰国したドヴォルザーク。
しかし帰国からおよそ1か月後、ヨセフィーヌはこの世を去ってしまいました。
彼女の死に直面した彼は、急遽第3楽章のコーダ部に手を加え、
第1楽章の回想と「1人にして」の旋律を付け加えました。
その歌曲のチェロ版がこちらです。
『チェロ協奏曲』の特徴や聴きどころは?
つぎに作品の特徴を簡単に見てみましょう。
後期を代表数『チェロ協奏曲』は、ボヘミヤ楽派と呼ばれるドヴォルザークの真骨頂と言えるでしょう。
その1、情熱的な旋律と感情表現
チェロ協奏曲は、非常に情熱的で感情豊かな旋律が特徴です。
特に第2楽章のアダージョは、深い感情を伴った美しい旋律で知られており、チェロ奏者の技術的な腕前と感情の表現力を要求します。
この楽章はしばしば聴衆の心に感動を呼び起こします。
その2、ボヘミアの民族音楽の影響
ドヴォルザークは、自身の出身地であるボヘミア(現在のチェコ共和国)の民族音楽に深く根ざしており、その影響を協奏曲に取り入れています。
民謡風の旋律やリズムが協奏曲中に見られ、
この音楽の特徴的な響きが魅力の一部となっているのはそのためです。
ドヴォルザークは、アメリカで聴いた黒人霊歌やインディアンの音楽に大きな影響を受けました。
『チェロ協奏曲』ではアメリカの民族音楽とチェコの民族性、
そしてドヴォルザークのロマン性が見事に調和しています。
この作品の主題(テーマ)ついて、インディアンや黒人霊歌の民謡から抜粋されたという説があるようです。
しかしこれについてドヴォルザーク本人は、
あくまでも「参考にした」ものであり、
引用についてははっきりと否定しています。
その3、チェロとオーケストラの対話
この作品が傑作と呼ばれる理由の1として、
ソリストとオーケストラとの魅力的な対話が挙げあれます。
チェロが美しい旋律を奏でる一方で、
オーケストラも豊かな音楽テクスチャや伴奏を提供し、
協奏曲全体に深みと多彩さをもたらしています。
特に第3楽章のフィナーレでは緊張感と活気が高まり、
協奏曲を力強く締めくくります。
『チェロ協奏曲』の楽曲編成
本作は一般的な協奏曲形式同様、3楽章構成です。
チェロの存在感はもちろんのこと、ドヴォルザークの卓越した感性と書法がオーケストレーションの面でも遺憾なく発揮されています。
以下、楽章ごとに簡単に紹介します。
第1楽章 Allegro、ロ短調、ソナタ形式
クラリネットによる主題の先導からホルンがそれに続き、
やがてオーケストラ全体へと広がりを見せる。
さまざまな楽器がソロパートを担ったのち、堂々としたチェロが主題を奏でます。
第1楽章の主題は、ドヴォルザークが「ナイアガラの滝」を見てインスピレーションを受けたのだとか。
第2楽章 Adagio ma non troppo、ト長調、3部形式
上述のドヴォルザークの歌曲「1人にして」のフレーズが登場する名場面です。
美しくも、激しく、どこかに悲しげも抱えたようなメロディーが作品を彩ります。
第3楽章 Allegro moderato、ロ短調~ロ長調、自由なロンド形式
ボヘミヤの民族無曲がふんだんに盛り込まれたロンド。
チェロの語りかけるようなメロディが、まるで歌を歌うかように作品を締めくくります。
全体の演奏時間はおよそ40分なため、少し長く感じるかもしれません。
しかし、クラシック史上「最高の協奏曲」は必聴の価値があるので、
ぜひ聴いてみてください!。
『チェロ協奏曲』の動画
世界的チェリスト、ヨーヨーマによる情熱溢れる演奏です。
作品の持ち味が最大限に発揮された名演だと思います。
帝王カラヤンとチェリスト・ロストロポーヴィチの共演。
演奏風景は見れませんが、名演をお楽しみください。
日本が誇る世界的マエストロ・小澤征爾とロストロポーヴィチ(晩年)の演奏です。
ロストロポーヴィチの集大成的な演奏が心を惹きつけます。
『チェロ協奏曲』の解説まとめ
今回はドヴォルザークの後期の傑作『チェロ協奏曲』を解説しました。
どれもざっくり解説ですが、導入部としてお役に立てればと思っています。
普段、チェロの作品を聴くことは少ないと思いますが、
この記事を機会に、美しい音色に親しんでみるのも良いかもしれませんよ!