ショスタコーヴィチの代表曲おすすめ8選!作品の特徴や魅力、最高傑作を簡単まとめ解説!

ショスタコーヴィッチ

    この記事では、2ドミートリィ・ショスタコーヴィチの代表曲について紹介します。

    ソビエト政権下に翻弄されたショスタコーヴィチですが、
    彼が残した作品群は、現在でも世界中の人々から愛されています。

    「ちょっと難解なんだよな〜」という方も多いかもしれません。
    でも、この記事ではいつものようにざっくり解説でお届けしていますので、
    どうぞお気軽にご一読いただければ幸いです。

    なお、今回の記事も「ショスタコーヴィチの生涯」記事とリンクしていますので、
    そちらも併せてお読みいただくと、少しだけ教養が深まります!

    ショスタコーヴィッチ

    ということで。まずは独断と偏見による、おすすめ代表曲から見てみましょう。
    各作品には参考動画もありますでの、説明と併せてご覧ください。

    ショスタコーヴィッチ
    画像出典:アマゾン:ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

    ショスタコーヴィッチの代表曲おすすめ8選

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    幼少期から神童として才能を発揮したショスタコーヴィチですが、
    その人生は決して平坦なものではありませんでした。

    激動の時代を生き抜いた魂の作曲家の作品から、
    今回は8曲を紹介します。

    参考動画と共に、ぜひご一読ください。

    ショスタコーヴィチの代表曲その1、オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」

    全編

    ショスタコーヴィチが1930年から1932年にかけて作曲したオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」は、彼の初期の傑作のひとつ。

    全4幕9場から成る本作は、ニコライ・レスコフの同名の小説を原作に、アレクサンドル・プレイスとの共同で台本が作成されました。

    20代半ばに作り上げたこの作品は、後に「プラウダ批判」により上演が禁止される事態となります。

    初演は1934年1月22日。
    レニングラードのマールイ劇場(現ミハイロフスキー劇場)にてサムイル・サモスードの指揮で行われました。

    この初演は大成功を収め、レニングラードとモスクワでの公演は2年間で83回を数え、
    さらにはアメリカやアルゼンチン、ヨーロッパ各地でも上演されました。

    しかし、その後、共産党中央委員会機関紙『プラウダ』に「音楽のかわりに荒唐無稽」と批判され、スターリンの不興を買ったことで上演が禁止されます。

    このため、ショスタコーヴィチは1962年にこの作品を『カテリーナ・イズマイロヴァ』として改訂し、再び世に送り出すことになりました

    また、オーケストラのために編まれた2つの異なった組曲も、
    これらの間奏曲を基にしたものであり、作曲者の創意が随所に光る仕上がりとなっています。

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    組曲版
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    ショスタコーヴィチの代表曲その2、交響曲第5番「革命」

    交響曲第5番

    交響曲第5番は、ショスタコーヴィチ作品の中でも特に有名で、1937年に初演されました。

    この交響曲は、4楽章からなる古典的な構成を持ち、声楽を含まない純粋な器楽作品です。

    スターリンによる大粛清の時期に作曲されたこの作品は、
    ショスタコーヴィチにとって名誉回復のための重要な作品とされています。

    初演は1937年11月21日。
    レニングラードでエフゲニー・ムラヴィンスキーの指揮によって行われ、瞬く間に成功を収めました。

    今日では、ショスタコーヴィチの交響曲の中でも特に人気があり、広く演奏されています。
    ちなみに、日本では「革命」の副題で知られていますが、
    これはショスタコーヴィチ本人がつけた副題ではありません

    海外では通じないので、ご用心。

    ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

    ショスタコーヴィチの代表曲その3、交響曲第7番「レニングラード」

    交響曲第7番

    『交響曲第7番「レニングラード」』は、ナチス・ドイツ軍に包囲されたレニングラード(現サンクトペテルブルク)市内で作曲されました。

    この作品は、戦争をテーマにしており、
    ナチスのファシズムへの反感とソ連のプロパガンダが強く反映されています。

    初演は1942年3月5日、臨時首都クイビシェフにて行われ、共産圏だけでなく、非共産圏でも高く評価されました。

    この交響曲は、演奏時間が約75分に及び、壮大なスケールを持つ音楽として知られています。
    初演後、特にその壮大さと強いメッセージ性が称賛されましたが、
    一部では「壮大なる愚作」との評価もあり、議論を呼びました。

    第1楽章に流れるメロディに聴き覚えのある方は、
    ある程度年齢がいっている方かもしれません(笑)。

    全体として、国威発揚を促すような迫力のある作品となっています。

    ショスタコーヴィチの代表曲その4、交響曲第10番

    交響曲第10番

    交響曲第10番は、ショスタコーヴィチの音楽的自己表現が最も顕著に現れた作品。
    ショスタコーヴィチは、自身のイニシャルに基づいた「DSCH音型」を重要なモチーフとして使用し、この音型が第3楽章から第4楽章にかけて頻繁に現れます。

    これにより、スターリン体制から解放された自分自身を表現したのではないかと考えられています。

    本作は、1948年のジダーノフ批判による苦境の中で作曲されました。
    スターリンの期待を裏切った交響曲第9番の後に書かれたものであり、
    ショスタコーヴィチの内面的な葛藤と解放感が反映されていると言われています。

    また、この交響曲はカラヤンが録音した唯一のショスタコーヴィチ作品でもあり、
    特に評価が高く評価されています。

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    ショスタコーヴィチの代表曲その5、ジャズ組曲

    ジャズ組曲第2番

    意外に想われるかもしれませんが、
    ショスタコーヴィチは、『ジャズ組曲』という作品も作曲しています。

    普段は交響曲のような重厚で暗いテーマを扱うことが多い彼ですが、
    このジャズ組曲では軽妙で明るい音楽を提供しています。

    これらの組曲は、ソビエト・ジャズ委員会の委嘱により作曲され、
    ソ連におけるジャズの普及とバンドの向上を目的としています。

    完全な「ジャズ曲」というよりは、変奏曲に近い作品です。

    ショスタコーヴィチの代表曲その6、ピアノ協奏曲第1番

    ピアノ協奏曲第1番

    ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番は、1933年に作曲されました。

    正式名称は『ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲 ハ短調』であり、
    作曲と同年の1933年にショスタコーヴィチ自身のピアノで初演され、大成功を収めました。
    これにより、ショスタコーヴィチは作曲家兼ピアニストとしての人気を獲得し、
    さらにその名声が高まるきっかけとなりました。

    本作はは、複数の楽章で構成されるものの、
    全体がアタッカで続く単一楽章としても解釈できるユニークな構成となっています。

    トランペット独奏とピアノの共演が見られる、とても珍しい作品です。

    ショスタコーヴィチの代表曲その7、ヴァイオリン協奏曲第1番

    ヴァイオリン協奏曲第1番

    ショスタコーヴィチが1947年に作曲された作品です。
    本作の特徴は、民族的要素を取り入れた点にあります。

    特に全曲を通じてユダヤ趣味が散りばめられており、
    ロシアの民族的な色彩が強く反映されています。

    1955年に初演され、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、ダヴィッド・オイストラフの独奏によって高い評価を受けました。

    ちょっと難解な作品ではありすが、
    現在でもショスタコーヴィチを代表する協奏曲として人気があります。

    ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1・2番、ヴァイオリン・ソナタ

    ショスタコーヴィチの代表曲その8、ピアノソナタ第1番

    ピアノソナタ第1番

    ショスタコーヴィチのピアノソナタ第1番は、1926年に作曲され最初のピアノソナタです。

    西欧の現代音楽に影響を受けた前衛的な作品であり、
    当時のソ連においても非常に斬新なものでした。

    ショスタコーヴィチ自身が初演を行った際、
    その演奏の激しさから鍵盤に血がつくほどの熱演を披露しました。

    このピアノソナタは、技術的にも高度であり、
    ヴィルトゥオーゾ奏者にとって究極の試練となる作品です。

    ショスタコーヴィッチ作品の特徴や魅力について

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    ここまでショスタコーヴィチの作品を8曲紹介してきました。
    作品数かなり多い作曲家なので、物足りない気もしなくもないですが・・・。
    でも、他の作品を聴くきっかけにしていただければ幸いです。

    以下では、ショスタコーヴィチの作品の特徴や魅力について、
    簡単に紹介します。

    ショスタコーヴィッチ作品の特徴や魅力その1、深い感情表現と音楽的なコントラスト

    深い感情表現と鮮やかなコントラストがショスタコーヴィチ作品の特徴です。

    たとえば、第1楽章の重厚な序奏から始まり、激しい緊張感と静謐な瞑想的な部分が交互に現れる『交響曲第5番』がその典型です。

    また、第2楽章では軽やかなワルツが展開され、第3楽章では深い悲しみが表現されます。そして第4楽章では、壮大なクライマックスへ。
    聴く者の心を強く揺さぶる感情の起伏や音楽的な対比が、ショスタコーヴィチ作品の魅力といえるでしょう。

    その2、社会批評と隠されたメッセージ

    ショスタコーヴィチ作品には、しばしば社会批評や隠されたメッセージが込められていることで知られています。

    その代表例が、『交響曲第7番「レニングラード」』です。
    第1楽章に登場する有名な「侵攻のテーマ」は、
    ナチスドイツの侵攻を表現していると解釈されてきました。

    しかし、この作品には単なる戦争描写以上の意味があり、
    スターリン体制下の抑圧や、人間の尊厳を踏みにじる全体主義への批判が込められているとも考えられるのです。

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    その3、伝統と革新の融合

    伝統的な形式と革新的な要素を巧みに融合させた点もショスタコーヴィチの特徴です。

    中でも『弦楽四重奏第8番』は、その好例といえるでしょう。
    バッハの名前を音符に置き換えたBACHモチーフを使用しつつ、
    自身の作品からの引用も織り交ぜています。

    また、民謡的な旋律や現代的な不協和音も取り入れています。
    このように、古典的な手法と現代的な表現を組み合わせることで、
    ショスタコーヴィチは独自の音楽世界を創り上げました。

    その4、ショスタコーヴィチの音楽的署名:DSCH音型

    DSCH音型は、ショスタコーヴィチが自身の音楽作品に頻繁に用いた音楽的モチーフです。
    これは彼の音楽的署名とも呼ばれています。

    この音型は、ドイツ音名で D-Es-C-H の4音で構成されています
    日本の音名で表すと、レ-ミフラット-ド-シですね。

    この並びは、ショスタコーヴィチの名前「D. Schostakowitsch」(ドイツ語表記)のイニシャルに由来しています

    DSCH音型は、特に後期の作品で顕著に使用されており、
    例えば『弦楽四重奏第8番』では、この音型が全楽章を通じて繰り返し登場し、作品全体を統一する重要な役割を果たしています。

    また、『交響曲第10番』の第3楽章でも、このモチーフが印象的に使われています。

    このように、DSCH音型は単なる音の並びではなく、
    作曲家自身を表す象徴的なモチーフとして機能しているのが彼の作品の特徴です。

    スコア ショスタコービッチ 交響曲第5番 楽譜

    その5、ユダヤ音楽の影響

    ショスタコーヴィチは、ユダヤ人ではありませんでしたが、
    その音楽にはユダヤ的要素が多く見られます。
    例えば、1944年作曲の『ピアノ三重奏曲第2番』が、この傾向を明確に示した最初の作品とされています。

    彼のユダヤ音楽への関心は、マーラーへの興味や1936年のプラウダ紙による批判を契機に深まりました。

    交響曲第5番第3楽章では、ユダヤ教会の典礼詠唱を引用。交響曲第7番では、クレズマー旋律を用いています。

    具体的な作品としては
    歌曲集『ユダヤの民族詩から』
    ヴァイオリン協奏曲第1番
    弦楽四重奏曲第4番
    などが挙げられます。
    特に『弦楽四重奏曲第8番』では、ピアノ三重奏曲第2番のユダヤ旋律を明確に引用しています。

    ショスタコーヴィチの周囲には、作曲家のヴァインベルグや俳優のミホエルスなど、
    多くのユダヤ人がいました。
    そんな彼らとの交流が、ユダヤ音楽への理解を深めたとのかもしれません。

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    マーラー

    その6、ショスタコーヴィチと社会主義リアリズム

    社会主義リアリズムは、1930年代のソ連で公式に採用された芸術理論です。
    この理念は、芸術が社会主義の理想を反映し、労働者階級を鼓舞すべきだというもの。

    しかし、ショスタコーヴィチの創作活動は、この方針と常に緊張関係にありました。

    1936年、彼のオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』が「形式主義的」だとして批判されます。

    これを機に、ショスタコーヴィチは作風の変更を余儀なくされました。
    その意味において『交響曲第5番」は、この転換点を示す作品といえるでしょう。

    表面上は社会主義リアリズムに沿った「英雄的」な様式を採用しつつ、
    内に深い悲哀を秘めています。

    しかし、ショスタコーヴィチは完全に屈したわけではありませんでした。
    彼は巧みに政治的要求と芸術的誠実さのバランスを取り、
    例えば、上述の『交響曲第7番「レニングラード」』は、一見ナチスドイツへの抵抗を描いた愛国的作品ですが、全体主義への批判も含んでいるとされています。

    つまり、ショスタコーヴィチは社会主義リアリズムの枠内で創作しながらも、
    独自の表現を模索し続けたわけですね。

    ショスタコーヴィチの最高傑作『弦楽四重奏曲第8番』について

    『弦楽四重奏曲第8番』の解説その1:弦楽四重奏曲第8番の背景

    1960年、ショスタコーヴィチは深い精神的危機に直面していました。
    不本意ながら共産党に入党し、戦争で荒廃したドレスデンの姿を目にした彼は、自身の内面の荒廃と重ね合わせます。

    この状況下で生まれたのが本作『弦楽四重奏曲第8番』です。
    表向きは「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に」捧げられていますが、
    実際には作曲者自身の内面を描いた自伝的な作品だと考えられています。

    ショスタコーヴィチはわずか3日間でこの曲を書き上げ
    友人への手紙では、作曲中に止めどなく涙が流れたことや、
    自殺さえ考えていたことを告白しています。

    また、「自分が死んだ後に誰かが四重奏曲を捧げてくれるとは思えない」と記し、
    本作が自身への追悼曲であることを暗に示しました。

    解説その2. 作品の構造と音楽的特徴:隠された自己表現

    本作は全5楽章から構成され、演奏時間は約20分です。
    各楽章は途切れることなく演奏されるのが特徴的です。

    作品全体を通じて、上述の「D-S(Es)-C-H」の音型(DSCH音型)が繰り返し現れます

    さらに、自身の過去の作品からの引用も多く含まれているのも特徴です。
    例えば『交響曲第1番・第5番』や、そして『ピアノ三重奏曲第2番』からの引用が確認できます。

    これらの引用は、彼の人生と作品の軌跡を音楽で表現したものではないかと解釈されています。

    この作品は、ショスタコーヴィチの全15曲の弦楽四重奏曲の中で最も重要な作品と評されており、政治的圧力と芸術家としての良心の間で苦悩する彼の内面を、鮮明に映し出す作品として、
    現代でも世界中の人々に親しまれています。

    ショスタコーヴィチの代表曲まとめ

    ということで。
    少し長くなってしまいましたが、ショスタコーヴィチの代表作紹介はここまでです。

    とはいえ、まだまだ紹介しきれていない作品が多いので、
    いつか別記事で書いてみようと思っています。

    この記事をお読みいただき、少しでもショスタコーヴィチの生涯や作品について、
    関心を持っていただければ幸いです。

    それでは、次回もお楽しみに!

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