グリーグの「小鳥」と聞いて、心にはどんな風景が浮かびますか?
キラキラと輝く木漏れ日の中、愛らしい小鳥たちが楽しげにさえずる…。
そんな情景が目に浮かぶような、可憐で美しいメロディーが魅力的な名曲ですよね。ピアノ発表会やコンサートでも頻繁に取り上げられるこの曲に、「いつか弾いてみたい!」と憧れを抱いている方も多いのではないでしょうか。
しかし、その一方で、
と、不安を感じてしまうのも事実。
そんな方のために、この記事では、ピアノ中級者にとって憧れの一曲であるグリーグの「小鳥」について、筆者自身の実体験も交えながら、具体的な難易度を徹底解説します。
さらに、演奏が劇的に変わる3つのポイントや、記事の後半では無料で楽譜を手に入れる方法まで、あなたの「弾きたい!」という気持ちを全力でサポートする情報をお届けします!
筆者は3歳からピアノを開始。紆余曲折を経て、かれこれ30年以上ピアノに触れています。音大には行っておらず、なぜか哲学で修士号というナゾの人生です。
ノルウェーの魂を描いた作曲家、グリーグの生涯
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解説の前に、いつものようにちょっとだけ作曲家紹介を。
音楽的背景を知ることで、作品への理解がより一層深まりますよ!
グリーグは、ノルウェーのベルゲン出身の作曲家、ピアニスト。
「ノルウェーの国民的作曲家」として、現在でも多くの人々に敬愛されています。
作品の最大の特徴は、故郷ノルウェーの雄大な自然や、古くから伝わる民謡の要素が色濃く反映されている点。フィヨルドの荘厳な景色や、森の奥深くで妖精が踊るような幻想的な雰囲気が、グリーグの音楽には息づいています。
代表作として、もっとも有名なのは、劇付随音楽「ペール・ギュント」でしょう。
とくに「朝」や「山の魔王の宮殿にて」は、テレビやCMなどで誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。しかし、グリーグの真骨頂は、ピアノのために書かれた小品にあると言っても過言ではありません。
その代表格が、生涯にわたって書き続けられた「抒情小曲集」です。全10集66曲からなるこの曲集には、「蝶々」「春に寄す」、そして今回取り上げる「小鳥」など、自然や日常の風景、心象をスケッチしたような珠玉の作品が収められています。
こちらの記事で詳しく書いています。
グリーグの「小鳥」とはどんな曲?
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それでは、数あるグリーグの作品の中でも特に人気の高い「小鳥(Liten fugl / Vöglein / Little Bird)」について、詳しく見ていきましょう。
この曲の魅力を知れば、ますます弾いてみたくなること間違いなしです!
楽曲の概要と構成、演奏時間
この曲の正式名称は、「抒情小曲集 第3集 作品43」の第4曲です。
グリーグが30代後半から40代にかけて作曲した作品で、彼の創作活動が最も充実していた時期の作品の一つでもあります。
曲の構成は、A-B-A’という非常に分かりやすい三部形式で書かれています。
- A部分(Allegro leggiero):曲の冒頭から、右手の軽快なトリルと装飾音符が、まさに小鳥のさえずりを表現しています。左手はシンプルな和音で、右手のきらびやかな動きを優しく支えます。
- B部分(Poco tranquillo):中間部は、少しテンポが落ち着き、歌うような穏やかなメロディーが現れます。これは、さえずっていた小鳥がふと枝に止まり、何かを語りかけてくるような、あるいは、森の静けさを表現しているような部分です。
- A’部分(Tempo I):再び冒頭の軽快なテーマに戻ります。A部分の再現ですが、最後はより華やかに、そして一瞬の静寂の後、小鳥が空高く飛び去っていくかのように、鮮やかに曲を閉じます。
演奏時間は2分弱と短いながらも、その中に物語性が凝縮されており、聴きごたえのある一曲です。
発表会やコンサートでも人気
「小鳥」がピアノの発表会やアンコールピースとして頻繁に演奏されるのには、いくつかの理由があります。
- 聴き映えがする: 右手の華やかなパッセージは、演奏者の技術をアピールするのに最適です。実際の難易度以上に「技巧的に聴こえる」ため、ステージ映えします。
- 情景が伝わりやすい: 「小鳥」というタイトル通り、誰が聴いてもイメージを共有しやすい標題音楽です。聴衆も曲の世界に入り込みやすく、演奏者と一体となって楽しむことができます。
- 親しみやすいメロディー: グリーグ特有の美しいメロディーラインは、一度聴いたら忘れられない魅力を持っています。クラシック音楽に馴染みのない人にも、素直に「良い曲だな」と感じてもらえるでしょう。
- 程よい長さ: 集中力を保ちやすく、他の曲との組み合わせもしやすいため、プログラムに組み込みやすいという利点もあります。
理由はどうあれ、「弾いてみたい!」と思ったら、思い切ってチャレンジしてみましょう!
グリーグ「小鳥」の難易度を実体験をもとに解説!
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回り道をしましたが・・・。
ここからは、気になる「小鳥」の難易度について、具体的なレベルや教則本に例えながら、筆者の実体験を交えて詳しく解説していきます。
基本的なピアノレベルは「中級者」向け
結論から言うと、「小鳥」の難易度は「ピアノ中級者」レベルです。
ピアノを始めたばかりの初心者には少しハードルが高いですが、かといって上級者でなければ手が出せないという曲でもありません。
具体的には、以下のようなテクニックが求められます(個人的見解です)
- 指の独立と速いパッセージの処理能力: 右手のトリルや装飾音符を、粒の揃ったクリアな音で弾くための指のコントロール。
- 両手のコンビネーション: 右手の速い動きと、左手の和音や対旋律を正確なタイミングで合わせる能力。
- アルペジオ(分散和音)と跳躍: 左手が伴奏形で広い音域をカバーする部分を、スムーズに弾きこなす力。
- 繊細なペダリング: 曲の透明感を損なわないよう、響きをコントロールするペダルの技術。
- 音楽的な表現力: 楽譜通りに弾くだけでなく、強弱やテンポの変化で「小鳥」の生き生きとした様子を描き出す力。
ある程度の基礎力を身につけ、表現の幅を広げていきたいと考える段階に最適な曲と言えるかなと思います。
教則本で例えるならこのレベル
「中級者」と言われても、ピンとこないかもしれません。
そこで、多くの方が使ったことのあるであろう教則本に例えて、難易度を具体的に示してみましょう。
- ブルグミュラー25の練習曲:この教則本を「修了」したレベルであれば、十分に挑戦可能です。「アラベスク」の軽快さや、「乗馬」の勢い、「貴婦人の乗馬」の華やかさなどを表現できる力があれば、「小鳥」のテクニックにも対応できるハズ。
- ソナチネアルバム:ソナチネアルバムの第1巻を学習中ならなお良しという感じ。とくに、クーラウやクレメンティのソナチネに出てくるスケールやアルペジオをスムーズに弾けるようになっていれば、良い練習曲になりますよ!
- ツェルニー練習曲:ツェルニー30番を学習中の方にぴったりのレベルです。30番で要求される指の独立性や持久力は、「小鳥」の右手のパッセージを弾きこなす上で直接的に役立ちます。
筆者自身、ツェルニー30番に取り組んでいる頃に、取り組んだ記憶があります。
最初は右手のトリルが思うように弾けず、「ミミズが這っているような音だ…」と落ち込んだのを覚えています(子供頃の話ですが)
挫折しやすいポイントはここ!
「小鳥」は魅力的な曲ですが、多くの学習者がつまずきやすいポイントがいくつか存在します。
事前に知っておくことで、効率的な練習計画を立ててみましょう!
- 右手のトリルと装飾音符:やはり最大の難関はここでしょう。指がもつれてしまったり、力んで音が硬くなったり、リズムが崩れたり…。「キラキラした音」を目指しているのに、なぜか「ガチャガチャした音」になってしまう、という悩みは非常によく聞かれます。
- 左手の跳躍と和音:一見すると簡単そうに見える左手ですが、実は油断できません。とくにB部分(中間部)では、ベース音を弾いた後に上の和音を押さえるという跳躍があり、これを滑らかに繋ぐのが意外と難しいのです。
- 両手のタイミングを合わせる:右手と左手、それぞれ片手ずつなら弾けるのに、両手で合わせると途端にバラバラになってしまう。これも「あるある」な悩みです。右手の速いリズムに左手がつられてしまったり、その逆が起きたりします。
- 音楽的な表現:テクニック的な課題をクリアしても、まだ終わりではありません。ただ速く弾くだけでは、機械的な演奏になってしまいます。「小鳥」の可愛らしさ、軽やかさ、そして中間部の歌心といった音楽的な表現を乗せていく作業が、この曲の最後の、そして最も奥深い課題と言えるでしょう。
全部を一度に意識するというよりは、苦手に感じる原因を探る感じで練習してみてください!
グリーグ「小鳥」の演奏が劇的に変わるポイント3選
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ということで・・・。
難易度や挫折しやすいポイントが分かったところで、いよいよ実践編です。
ここでは、筆者が実際に試して効果があった(レッスンで習った)、「小鳥」の演奏をワンランクアップさせるための具体的な練習ポイントを以下の3つに絞って紹介します。
1. 右手のトリルは「脱力」が命!軽やかな小鳥のさえずりを表現しよう
「小鳥」の魂とも言える右手のトリル。これを制する鍵は、ずばり「脱力」です。
手首や腕、肩に少しでも力が入っていると、指はスムーズに動かず、音も硬直してしまいます。
軽やかでキラキラした音を出すためには、徹底的に力を抜く意識が不可欠です。
まずは、ピアノを弾く前に肩を回したり、手首をぶらぶらさせたりして、リラックスすることから始めましょう。練習の際は、指先が鍵盤に軽く触れる程度の感覚を意識して。
2. 左手は「伴奏」にあらず!もう一羽の小鳥との対話を楽しんで
右手の華やかさに気を取られがちですが、左手の役割も重要です。とくに中間部では、左手も美しいメロディーラインを奏でます。この部分を単なる「伴奏」として捉えてしまうと、曲が途端に平坦になってしまうことも。
ぜひ、左手だけでメロディーを何度も弾いてみてください。
そして、歌をうたうように、フレーズの抑揚や呼吸を感じてみましょう。そうすると、左手が右手の「小鳥」と対話しているような、あるいは、森の穏やかな情景を描いているような、豊かな表情が見えてくるはずです。
3. ペダルは濁らせない!
ペダルは、演奏を華やかに彩る「魔法の粉」のようなもの。
しかし、使い方を間違えると、せっかくの美しい響きが濁って台無しになってしまいます。
「小鳥」のように速いパッセージが多い曲では、特に繊細なペダリングが求められます。
基本は、和音が変わる瞬間に素早く踏み変える「シンコペーテッド・ペダル」です。
音が濁るのを恐れず、しかし的確なタイミングで踏み変える練習を繰り返しましょう。ペダルマークが書かれていない部分でも、響きが足りないと感じるところに軽くペダルを足す(ハーフペダル)ことで、音楽に潤いを与えることができます。
まずはペダルなしで完璧に弾けるように練習し、その後、どの音を響かせたいのかを考えながらペダルを加えていくのがおすすめ。
【無料楽譜あり】グリーグ「小鳥」の楽譜紹介
最後に、「小鳥」の楽譜を手に入れる方法をいくつか紹介します。
便利な無料楽譜から、解説付きの市販楽譜まで、自分に合ったものを選んでみてください。
無料でダウンロード!IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト)
「IMSLP(International Music Score Library Project)」というウェブサイトをご存知でしょうか。ここは、著作権保護期間が満了した(パブリックドメインの)楽譜を、PDF形式で無料公開している、音楽を愛する人々にとっての宝庫のようなサイトです。
グリーグの作品は、彼の死後70年以上が経過しているため、著作権が切れています。そのため、IMSLPで「小鳥」を含む「抒情小曲集」の楽譜を、完全に合法かつ無料でダウンロードすることが可能です。
IMSLPのダウンローはこちら!(番号だと「20」です)
IMSLPの楽譜は海外のものが中心なので、指番号(運指)や演奏に関する解説が記載されていない場合が多いです。ある程度自分で運指を考えられる中級者以上の方におすすめの方法です。
初心者にも安心!おすすめの市販楽譜
「やはり運指や解説があった方が安心」という方には、市販の楽譜がおすすめ。日本の出版社から出ているものは、学習者のことを考えて丁寧に編集されているものが多く、安心して使うことができます。
- グリーグ 抒情小曲集(全音楽譜出版社、春秋社など):「小鳥」だけでなく、「蝶々」や「春に寄す」など、他の抒情小曲集の名曲も弾いてみたいという方には、曲集での購入がおすすめです。解説が充実している版を選ぶと、グリーグの世界をより深く楽しむことができます。
>>アマゾン:グリーグ: 叙情小曲集(抒情小曲集) 全曲集/原典版/Heinemann & Nokleberg編/ヘンレ社/ピアノ・ソロ
>>アマゾン:グリーグ 抒情小曲集1: New Edition 解説付 (標準版ピアノ楽譜)/音楽之友社
電子楽譜という選択肢
最近では、タブレットやPCで楽譜を見ることができる「電子楽譜」も人気です。
- ヤマハ「ぷりんと楽譜」
- Piascore(ピアスコア)
などのサービスでは、1曲単位で楽譜を購入し、すぐにダウンロードして使うことができます。
「楽譜を買いに行く時間がない」「楽譜をデータで管理したい」という方には非常に便利な選択肢です。
グリーグ「小鳥」の難易度解説:まとめ
この記事では、グリーグの名曲「小鳥」の難易度から具体的な練習のポイント、楽譜の入手方法までを詳しく解説してきました。
きらびやかで技巧的に聴こえる「小鳥」ですが、その正体は、ピアノ中級者がステップアップするために必要な要素がつまった、挑戦しがいのある素晴らしい練習曲です。
最初は右手のトリルに苦戦するかもしれませんが、正しい練習方法を根気強く続ければ、軽やかに鍵盤の上を舞うようになりますよ!
憧れの曲を自分の手で奏でられた時の感動は、何物にも代えがたいものです。この記事が、あなたの「弾きたい」という気持ちを後押しし、美しい「小鳥」をあなたのレパートリーに加えるための一助となれば幸いです。
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- グリーグの「小鳥」は、ノルウェーの自然を愛した作曲家の感性が光る、可憐で美しいピアノ曲です。
- 難易度はピアノ中級者向けで、教則本ではブルグミュラー25修了~ソナチネアルバム学習中レベルに相当します。
- 最大の難関は、右手の軽快なトリルや装飾音符を、粒の揃ったクリアな音で弾きこなすことです。
- 演奏のポイントは、①右手の徹底的な「脱力」、②左手を「もう一羽の小鳥」と捉えた対話、③音が濁らない繊細な「ペダリング」の3点です。
- 無料楽譜は「IMSLP」で合法的に入手できますが、運指がないため中級者以上向けです。
- 初心者の方は、運指や解説が丁寧な日本の出版社のピアノピースや曲集がおすすめです。
- ポイントを押さえて正しく練習すれば、憧れの「小鳥」は決して弾けない曲ではありません。